書評

「デブで何が悪いの?」ってどうなの?

文: 佐藤 和歌子 (ライター)

『アメリカン・スーパー・ダイエット――「成人の3分の2が太りすぎ!」という超大国の現実』  (柳田由紀子 著)

 著者の柳田由紀子氏は二〇〇一年にアメリカに移住、アメリカという国で肥満がいかに大きな、複雑な問題となっているか、生活、医療、経済、法律、様々な面における実情を、日本の雑誌に寄稿してきた。病院やダイエットセンター、弁護士やセラピストなど、アクティブな取材によって「たかが肥満、されど肥満」の「されど」が浮かび上がる。「たくさん食べて少ししか動かなかったら太る」、基本原理はこの上なくシンプル。だが、「そうでなくあることがこれほど困難な国家を他に知らない」。柳田氏自身も、移住前後で体重が五キロ増えたという。

 アメリカ人はなぜ太るのか。

 移民や開拓といった歴史的背景や、現代の経済的格差社会、国民の価値観など、考えられる理由はいくつもある。この、いくつもあるということが問題らしい。柳田氏はアルコール依存症と比較して、「もしも、水道の蛇口をひねったら、水のかわりにワインやビールが出てきたり、ビールの普通ジョッキとスーパーサイズの値段が3円しか違わなかったり、あるいは、酔っぱらっても、ベルトコンベアが自動的にトイレに連れて行ってくれるとしたら、うれしいどころかこれはもう悪夢」、太っていたり太りやすい体質の人間にとってアメリカはそういう社会なのだと指摘する。移動手段はほとんど車。街に出れば目につくのはファストフード店ばかり、蕎麦屋も回転寿司屋もない。自炊しようとスーパーマーケットに行っても、肉に比べていかに魚が高価で稀少であるか。これは日本で生活する日本人はもちろん、アメリカで生活するアメリカ人にとっても、なかなか感じにくいことなのではないだろうか。

 太るとどうなるか? 人はどこまで太ることができるのか。

 まず身につけるもののサイズが合わなくなる。これくらいは私にも想像できたのだが、靴が履けないから年中サンダルで過ごすというのは盲点だった。さらに、車や飛行機のシートベルトが届かない。トイレで自分の尻に手が届かない。足の爪を切ることもできない。ベッドやソファから起き上がれなくなり、皮膚がカバーに癒着してしまった例もあるそうな。就職試験を受けても面接で落とされ、民間医療保険では審査に通らないか、二倍の保険料を請求される。呼吸困難で仰向けに寝られない、病院に行けば血圧計が腕に巻けない、MRIの機械に入れない。心不全で入院しても「自己責任」だからと保険金が下りない……。

 そう、当り前過ぎてまったく気がつかずにいたけれど、世の中すべてのものごとには「サイズ」がある。一定量を超えると生活のあらゆる場面で想像できないような制限を受ける。その例のなんと多いことか。そもそも一定量って、一体どこまでなんだろう……。

アメリカン・スーパー・ダイエット
柳田 由紀子・著

定価:1000円(税込) 発売日:2010年07月15日

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