現代にも通用するこの分類だが、本書で論じた35冊だと、こうなる。
(1)『完全なる結婚』(ヴァン・デ・ヴェルデ、昭和21年)、『性生活の知恵』(謝国権、35年)
(2)『旋風二十年』(森正蔵、22年)
(3)『この子を残して』(永井隆、24年)、『光ほのかに』(アンネ・フランク、28年)、『愛と死をみつめて』(河野実・大島みち子、39年)
(4)『おれについてこい!』(大松博文、40年)
(5)『日米会話手帳』、『英語に強くなる本』(岩田一男、36年)、『間違いだらけのクルマ選び』
(6)『易(えき)入門』(黄小娥、37年)、『ノストラダムスの大予言』(五島勉、49年)
これに、『宮本武蔵』(吉川英治、25年)や『太陽の季節』(石原慎太郎、31年)、『恍惚の人』(有吉佐和子、47年)などの小説群が加わると、まさに戦後の世相が浮かび上がってくる。
「創作ノート」の秘密
さて、件の「創作ノート」を拝借した。B5判のノートを開くと、8ミリ横罫の行の真ん中に、黒やブルーのインクの、少し丸まった肉筆が丁寧に連なっている。所々書き込みや、赤ペンで囲んだ箇所もある。取り上げた本のカバーに附された内容紹介の惹句や、資料の新聞記事も貼り付けてある。
たとえば、『危ない会社』(占部都美)の頁には、刊行年である昭和38年についてのメモの1項目として〈「政治の季節」から「経済の時代」へ〉とある。これ以前に社会党・浅沼稲次郎暗殺、翌年は「風流夢譚」事件と血腥(なまぐさ)い出来事が相次いだが、本書刊行の翌年は東京五輪開催の39年を迎える。その狭間の38年を「経済の時代」への節目と捉えて、この『危ない会社』を時代の節目の1冊に位置づけていることが、よく分かる。
しかし、井上さんはこんな直截な書き方をしない。本書を通読された読者もお分かりのように、その時代のうねりを意識させずに、自然と導いてくれるからだ。戦後を体現した作家による、体験的読書論の奥には、こうした詳細なノートが潜んでいたのである。
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