平成に入った頃から、日本農業は大きく変化し始めた。畜産や野菜栽培を中心に、強い農家が出現し始めた。彼らは農水省による保護など期待していない。日本は国土が狭いために、広い土地を必要とする穀物などでは、米国、カナダ、オーストラリア、ブラジルに敵わないが、飼料を輸入して行う畜産は広い土地を必要としない。また、一年間に何度もできる野菜の栽培も広い土地は必要ない。そのような分野に強い農家が出現し始めたのだ。
ただ、強い農家が出現し始めていることを知っている人は多くないだろう。それは、農水省や「農林村」の住人が、この事実を隠し続けているためである。その理由は農政が、弱い農民がたくさんいることを前提に行われているからだ。農水省の主な仕事は補助金を配ることである。だから、農産物のほとんどがやる気のある農家によって生産されており、やる気のある農家は補助金を当てにしていないことを、国民に知られては困るのだ。
農業ジャーナリストである浅川さんは、やる気のある農家を取材している中で、日本の農業が決して弱い存在でないことに気付いた。その競争力は先進国の農業をも上回る。やる気のある農家が行っている農業は決して弱い産業ではない。
TPPは日本農業を滅ぼすと言われているが、強い農家にとってTPPも海外市場を開拓するチャンスになる。このようなことは、やる気のある農家を取材し続けている浅川さんでなければ書けないことだろう。硬直化したTPPに関する議論を聞かされている我々にとっては、このくだりを読むだけでも価値がある。
日本農業は大きく変化しており、また、これからも変わり続けて行く。しかし、官僚も学者もこの変化を認めたくないようだ。それは、戦後日本の経済成長があまりに上手く行ったために、そこに大きな利権が生じ、そのぬるま湯の中で生きてゆけばなんとかなると思っているからだろう。それは「絶対安全」を繰り返し、現実を直視しなかった原子力関係者にも相通じるものがある。
日本農業は喧伝されるような弱い産業ではない。東日本大震災により受けた被害にも負けないで、雄々しく復活しようとしている。そのことを知るだけでも、震災後の不安な気分の中で元気が出る。「日本は強い国」であることを知りたい方に、ぜひ、読んで頂きたい本である。
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