他人の顔が見わけられない男の子、座敷童が見えると言い出したおじいちゃん、夢をコントロールして無聊を慰めるヒキコモリ少年……。
加納さんの最新作は、ほんの少し人と違う困難を抱えたり、特殊な力をもったりしている人々を描く短編集だ。
白血病との闘病記『無菌病棟より愛をこめて』も話題を呼んだ加納さん。
「病気を経験して、人の身体の不思議さ、精緻さに改めて気づきました。絶妙なバランスで成り立っている身体の歯車がわずかでも狂ったときの怖さを書いてみようと思ったのが、執筆のきっかけですね」
日常生活の中でアンテナを張り巡らせ、時に意識的に資料を読み込み、人の顔を覚えられない「相貌失認」、特定の場所や状況で会話ができなくなる「場面緘黙症」、夢だと自覚しつつ意識的に見る「明晰夢」など、さまざまな症例、現象を集めては、物語のかたちにふくらませていったという。
第2話の主人公は、ちいさい頃から四つ葉のクローバーの“声”を聞くことができた女の子。これは、人気テレビ番組の動画がヒントになった。
「『探偵!ナイトスクープ』で、四つ葉のクローバーを次々に見つける女の子が紹介されていたんです。番組内では特に理由は語られなかったんですが、『共感覚だろう』と言う人がいて、昔から共感覚には興味があったので、それがお話の芯になりました」
共感覚とは、通常は結びつかない複数の感覚が刺激によって関連し合う知覚現象のこと。物語の主人公の場合、物の形を認識する視覚と聴覚とが結びつき、特定の形が“声”として認識されるのだ。この一見何の役にも立たない能力を持て余したまま大人になった主人公は、やがて自らの“力”で、ある事件に立ち向かうことになる……。
「魅力的な題材を見つけるたび、これを何とかして物語にできないかとひたすら考え続けたので、一回一回ものすごく大変でしたが、もう書き残したことはないと思えるくらい、書き終えたいまは満足しています。
自分が見ている世界と、他人が見ている世界が同じかどうかって、自分ではわからないですよね。自分が特殊だということを知らずに悩んでいる方も多くいらっしゃると思うので、そういう人にも届いたらうれしいです」
登場人物それぞれに、物語の中で、一歩、背中を押される瞬間が訪れる。「昔から大団円が好きなんです。人生どん詰まりに見えても“トオリヌケキンシ”の先には必ず進む道がある。そこで諦めてしまわないで、という願いをこめたつもりです」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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