──『バースト・ゾーン――爆裂地区』以来四年ぶりの長編ですね。でも『独居45』というタイトルはずいぶん前から聞いていたような……。
吉村 「群像」の創刊六十周年記念号に、短編「イナセ一戸建て」が載ったのが二〇〇六年の九月でした。この短編はいずれ長編に引き延ばすつもりで、それが『独居45』になりました。タイトルだけが始めから決まっていて、だから以前から口に出していたのでしょうね。「ドッキョヨンジューゴ」という響きが「ゴックヨンジューゴ」みたいでいいかなあと一人で思ってました。内容が具体的に決まってきたのは去年に入ってからです。二〇〇六年当時私は四十五歳でしたから、自分の事を書こうと考えていました。結果的に、細かな部分に至るまで自分の個人的な情報をかなり盛り込む形になったと思います。
四年ぶりの長編という事ですが、長編を書いたという意識は余りなかったです。矢張り長編というのは五百枚を超えないと、という先入観が根強くあって、今年は何年か掛けて取り組んで結局頓挫(とんざ)した老人小説の失敗に懲りず、一千枚のSF長編を書こうと目論んでいます。まだゼロ枚ですけど。普通四年も本を出さないでいると干されてしまうような気がしますが、文春さんも、このあいだ短編集を出してくださった講談社さんも寛容なので感謝しています。
──眠ったようなありふれた町の戸建て借家に引っ越してきた主人公、坂下宙ぅ吉〔45歳、作家(いちおう)、独居〕は、吉村作品の常に増して強烈なキャラクターです。屋根に全裸女(マネキン)と血塗(ちまみ)れの手(ハリボテ)を突き立てるわ、夜な夜な全裸で徘徊するわ、講演会では聴衆に詰め寄るわ……と大変なものですが、そのわりに寡黙ですね。
吉村 特に小説の後半部分は、坂下宙ぅ吉が前面に出てこないようにしてあります。その代わり、近所の住人たちが妄想を膨らませていくようにすれば面白いかなと思いました。坂下宙ぅ吉の主張する人間観(人間は同類を殺しまくる残虐極まる狂った種であるとの主張)は、実は私自身が大真面目に確信しているところのものですが、それを彼に語らせれば語らせるほど滑稽になってしまって、俺ってこんなに格好悪いのかと書いていて情けなくなりました。しかし、では坂下宙ぅ吉の周囲の人間は格好いいかと言うと、これが坂下宙ぅ吉に劣らず格好悪いので、低いレベルでホッとしたと言うか、そんな感じです。もっと本気で人間の闇を追求する展開もあったと思いますが、これはこれで一つのリアルさかも知れないという気持ちで書き上げました。
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