インタビューほか

『月と蟹』の舞台を歩く

「本の話」編集部

『月と蟹』 (道尾秀介 著)

海岸|現実のヤドカリと小説のヤドカリは違っていていい

取材の際は葉山の磯で一時間程過ごしたという。この日も波打ち際で海藻を拾ったりヤドカリを探したり束の間磯遊びに興じた。

道尾 ああ、今日はヤドカリ見当たらないな、残念。子供が海で遊ぶっていうと磯のイメージがあって、慎一たちはヤドカリを貝殻からあぶり出してヤドカミ様って神様に見立てていますけど、僕もあぶり出そうとしたことがあります。根気よくやらなかったから途中で千切れちゃいましたけど。

貝の中に残ってしまったらしく、春也が引っ張り出したヤドカリには腹がなかった。濃い灰色の、鼻水のようなものを胸から垂らしたまま動かない。どうしてかその姿を見たとき、慎一の胸に唐突な寂しさが込み上げた。(第二章 63ページより)

道尾 本当はあの描写のようには千切れない。蟹の足をとる時みたいにぶちって千切れちゃって。でも、あのシーンでは実際みたいにからりと千切れるよりもどろりとしているほうが合ってますよね。そういう小説的リアリティーって大事だと思うんです。『球体の蛇』を書いている時に、スノウドームを壁に投げつけるシーンがあって、どうなるものか実験してみたんです。そしたら一発できれいに粉々になった。でもそれだとあまりにドラマチックでシーンに合わないからあえて「想像していたような割れ方はしてくれなかった」って書いた。やってみた結果をそのまま書くのがリアリティーではなくて、物語の必然性のほうを優先しないとならないし、それは映画ではなかなか難しくて、小説だからできることの一つですよね。

波打ち際にしゃがみこみ石を裏返す道尾さん。“子供と海”というと磯遊びが浮かんでくるという。

月と蟹
道尾 秀介・著

定価:1470円(税込) 発売日:2010年09月15日

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