- 2014.10.15
- インタビュー・対談
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
司会・構成:杉江 松恋
『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
阿部 ある種の陰謀論的世界が物語として組み立てられているというね。もちろん村上春樹はずっとそれをやっているわけです。表面的な理解で言えば、歴史の再構成の試みとか陰謀論を物語るのにまず、アメリカ文学をベースに、文学以外のさまざまなジャンルの創作物との連携もはかることで、大江健三郎よりもポップな部分を広げていったと言える。さっきの伊坂さんじゃないですけど、そうした創作の実践面から見ても、我々にとって村上さんは、上空を遮っているものすごく巨大なUFOみたいなものなんです。これは、なんとか超えなくちゃいけない。そうしないと、さらに上空にいて、下界にワーッと手を振っている大江健三郎と握手できない、みたいな感じがあったんです。だって、村上春樹はずっとそこに居続けるし、落ちる気配がないどころか、どんどんUFOが大きくなってる感じなんですから。
伊坂 嫉妬の話で言うと、春樹さんはもう僕たちよりも二回りも年上の人で、それで日本の小説界の話題を全部持って行っちゃうわけじゃないですか。それは本当にすごいけれど、僕たちもそれに立ち向かわないといけないんじゃないか、という気がしていて。僕はエンタメの人だから、どうしても勝ち目はないんですけれど、阿部和重なら春樹さんと対抗できるんじゃないかと前から思っていたので。だって、『ピストルズ』とか本当に素晴らしい作品ですし。なので、その時に、「阿部さんにこのまま頑張ってほしいんですよ」と伝えたんですよ。そうしたら阿部さんは優しいから(笑)、「いや、ふたりでやろうよ」みたいなことをポロッと言ってくれて。「え?」と思ったら、「何か一緒にやろうよ」と。そのときは具体的なプランがあったわけじゃないんです。だから「『冷静と情熱のあいだ』みたいな感じですか?」って、僕はそれほど本気にせずに。
阿部 その時は必然性というか、うまく流れができている気がしたんですね。ふたりの会話によってその必然性が生まれて、やるしかないような気持ちになって。伊坂さんがそれを受け止めてくれて、さらに同じようにやってくれるかは分からないけれど、なんか僕はその時に「いっしょにやろうよ」ってポッと言いたかった。そういう空気がありましたね。あんなこと言っちゃって大丈夫だったのかなと、あとでドキドキしましたが(笑)。
伊坂 本当に楽しかったから。後で同席していた三枝さん(当時の阿部の担当編集者。現・コルク副社長)にもメールで、「学校の友だちとしゃべってるみたいで、楽しかった」と書いたくらいで(笑)。
阿部 それを伺って、「とにかく悪い印象じゃなかったんなら良かったね」と僕はほっとしたわけです。
伊坂 で、半年ぐらい後に阿部さんが三枝さんと一緒に仙台に来てくれたんですよ。それまでも、僕は三枝さんとはたまに連絡を取っていたんですけど、同業者の人とはあまりメールアドレスの交換をしないことにしているので、阿部さんとも直接は、お話していないんです。それで、その次にお会いしたのは、その、2011年の3月に入ってからで。
阿部 「あの話を進めたいと思う」と。つまり、まだはっきりと言葉にしていないけど、「ふたりで合作をやりましょう」ということだったんですね。
――最初に出ていた「ふたりでいっしょに」という言葉がついに明確化したんですね。おもしろいですよね。そうやって作家ふたりが会ったことから合作の話が自然発生するという。出版社が持ちかけたわけじゃないんですもんね。
阿部 そうです。単純に、お互いがやりたかったからやろうとしただけなんですよ。
伊坂 世間を驚かせてやろう、とかそういう偉そうなのはまったくなくて(笑)。単にやりたいことがあってワクワクしていただけなんです。言っちゃ何ですけど、僕からすると、人生の思い出になる、というか(笑)。だって、阿部和重と一緒に小説を書ける、なんて、経験できない人がほとんどなんですから。実際に始めてみたらワクワクだけじゃなくてしんどいこともたくさんありましたけど(笑)。
――おふたりは現在三枝さんが副社長を務めておられるコルクにマネージメントを一任しているわけですが、その時点ではまだそういう関係ではなかったんですよね。
伊坂 そうなんです。そういうつながりでやったわけじゃなくて。
阿部 アイドルが一時限定でユニットを組むような(笑)。
伊坂 時系列から言うと、逆なんですよね。もともと彼が出版社に勤めている時に、これをやることになって。作品を作っているうちに、彼が、出版社を辞めるような気配になってきちゃって(笑)。
阿部 「そういうことならがんばれよ」って励ましたよね。
伊坂 だから途中からは、どこの出版社から出すのかも分からなくなって、ただ書いていたという(笑)。
(続く)
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
第2回 タイトルはこうして決まった! それ自体がすでに合作!
第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める
第4回 持てる技術をすべて注ぎ込んだ! 内容は、バディもの?
第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた
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