書評

<『日本の論点2010』に寄せて>
政権交代後の「論点」

文: 田原 総一朗 (ジャーナリスト)

『日本の論点2010』 (文藝春秋 編)

 普天間基地を、もし国外や県外に移設するのならば、政権政党としては、当然ながら移設すべき場所を確保しなければならない。場所を確保しないで移設と言っているのは無責任過ぎる。社民党などは、まだ県外移設を主張しているが、立場は政権与党でも意識は野党のままなのであろう。

 民主党が、県外に移設場所を探しているという情報はない。移設するために、鳩山由紀夫首相の選挙区である北海道や、小沢一郎民主党幹事長の選挙区である岩手県の首長たちに頼んだという気配もない。そして、どうやら沖縄県内の、それも自民党と米軍が交渉して定めた名護市の辺野古(へのこ)のあたりに落ち着きそうである。となると、いったいあの県外移設騒ぎは何だったのか。そして三党は明らかに沖縄県民を裏切ったことになる。 

官僚支配から抜け出せるかか

  まだ、ある。民主党は選挙中に、官僚の天下りを根絶すると謳(うた)っていた。これは、自民党の組む予算は官僚依存で無駄が多すぎる、民主党が政権を握れば無駄を徹底的に削除するという主張と並び、いわば民主党の政策の二本柱であった。

 全国に天下りの受け皿機関は約四五〇〇法人あり、約二万五〇〇〇人の官僚が天下っている。これを根絶するというのである。この主張は、国民にはわかりやすかった。

 官僚は、倒産というものがなく、リストラされることもない。そのうえ定年前に天下りできて、それも二カ所、三カ所と渡り、そのたびに少なからぬ退職金を獲得できる。民間人から見れば特権階級である。自民党にはできなかったことを民主党は敢行する。やはり政権交代は必要なのだ、と多くの国民が感じた。

 ところが、である。

 小泉内閣が敢行した郵政民営化が抜本的に見直されることになり、日本郵政の西川善文社長は辞任に追い込まれたが、その後継者として、かつてミスター大蔵省と称された齋藤次郎氏が堂々と天下った。官僚の天下り根絶と言いながら裏切ったのである。しかも、官僚による斡旋ではないのだから民主党の主張とは矛盾しないと言い張っている。言い訳をするのならば、もっと気の利いた言い訳もあるだろうに、無神経な強弁である。堂々たる裏切りを恥としない。

 また民主党は、すでに記したように、予算の無駄を徹底的に削除すると力説していた。ところが、このほど決まった民主党の二〇一〇年度予算の概算は九五兆円、実質的には九七・五兆円となった。自民党の麻生内閣が定めた二〇〇九年度の当初予算は八九兆円であったから、民主党の予算は、無駄を削除するどころか八・五兆円も増えてしまったのである。

 予算を査定した民主党の大臣たちに、なぜ無駄が削除できず、逆に増えてしまったのかを問うた。彼らは困惑しながら答えた。官僚たちが組み上げた予算は、あまりにも細分化され、細目が膨大な数に達しており、チェックのしようがなかったのだという。野党の時には、無駄が削除できると考えていたのだが、政権を獲り、大臣になってみたら無駄を見つけられない、官僚がそれほど巧みに組み立てていることを思い知らされたわけだ。

 それほど官僚支配の根は深い。『論点2010』では、猪瀬直樹、岸博幸、渡辺喜美という自ら官僚と対決してきた人たちがその問題点を洗い出し、菅直人副総理が、「官僚内閣制」を打破する決意を表明している。 

日本の論点2010
文藝春秋・編

定価:2900円(税込) 発売日:2009年12月07日

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