――初の文庫オリジナル・シリーズとなる「燦」の刊行が始まりました。第一弾『燦 1 風の刃』では、異能の一族の少年・燦と、藩に仕える家老の嫡男・伊月(いつき)を中心に、江戸の世を駆ける少年たちが生き生きと描かれています。ご執筆のきっかけを教えてください。
あさの 今回のお話をいただいて、はじめに思ったのは「時代小説で、少年を主人公にしたエンタテインメントを書きたい」ということでした。時代考証はしっかりしつつも、それに縛られず、躍動する少年たちの「動と静」を描きたいと思ったんです。昨年春に、やはり少年たちを描いた時代小説『火群(ほむら)のごとく』(小社刊)を出しましたが、『火群』は武士の少年たちを、いわばオーソドックスな形で書いた。今度は同じ時代ものでも違う形で少年を書いてみたいという気持ちがあって、思い浮かんだのが「活劇」だったんです。
――燦は、山里に暮らす異能の一族の生き残りの一人として描かれています。登場する一族の面々はそれぞれ特殊能力を持っていて、燦は鷹を自在に操ります。
あさの 鷹はずっと書きたかったんですよ。実は、岡山の自宅の庭に小鳥が来るようにエサを置いているのですが、それを狙って鷹がくることもあるんです。目の前で、雀が捕らえられたのを見たこともあります。本当に格好のいい鳥なんですよ。その格好よさを、そのまま書いてみたいと思いました。そこで、はじめに思い浮かんでいたのは、鷹匠(たかじょう)の少年の物語。ただ、そのまま書くとエンタテインメントとは違ってくるので、少年と鷹の物語ならどうだろうかと。『子鹿物語』のように、動物との交流の中で心を通わせて、少年たちが学んでいくという児童文学の王道のような要素を、時代小説に取り込めたらと思ったんです。
――それにしても、主人公の名前であり、シリーズタイトルでもある「燦」。難しい漢字一文字というのも印象的です。名前の由来はあるのですか。
あさの 私も漢字で書けないかも(笑)。もともとは音の「サン」には、アフリカのある言語の中で、定住するのではなく浮遊する者、というような意味があると知ったんです。縛られないで生きるという姿に魅せられて、いつか登場人物の名前に使いたいなと思っていました。その「サン」という音に、漢字の「燦」をあてました。