- 2014.08.28
- 書評
佐々淳行(初代内閣安全保障室長)が見た
戦後の政治家 ベスト5 ワースト5
文:佐々 淳行
『私を通りすぎた政治家たち』 (佐々淳行 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
本書でも詳述していますが、防衛庁長官であったにもかかわらず、防衛問題よりも毎朝の円ドルの交換比率の動向や地元の山形の米問題に関心を寄せていた加藤紘一長官に更迭された私(当時防衛施設庁長官)を、労ってくれたのは駐日大使のマンスフィールドさんと上田耕一郎さんの二人でした。上田さんは、わざわざ面会を申し込んできて、何を言われるのかと身構えていたら、「あなたはイヤな答弁、イヤな仕事を全部やらされていますね。本当にご苦労さまでした。三宅島も政治的な失敗として解任された。そう私たちは理解しておる。誤った自民党の防衛政策のために、あなたのような国のために一生懸命やっている人が解任されるというのは非常によろしくない」とまで言われたものです。
不破さんとは東大時代に、学生ストの賛否をめぐって以来の「天敵」でしたし、国会でも何度も丁々発止とやりあい、名刺を交換したのも、実は退官してからある会合でのこと。そんな犬猿の仲であっても、彼らも彼らなりの「国益」を考え、その実現のために情熱を傾けたという点では評価できるところもあるでしょう。
滅びゆく士族の末裔として未来の政治家に遺す書
太平洋戦争(大東亜戦争)が終わってからもう70年近い。私も今年84歳になります。日本の将来を思うと、心配でならない。治安、防衛、外交といった国家でなければ成し得ないことを実現する上で、政治家の役割はますます重大です。
その観点から、「将来を期待したい政治家たち」という章では、安倍晋三首相以下の若手政治家(石破茂、前原誠司、長島昭久、小泉進次郎、橋下徹……)の名前を挙げました。彼らが、期待に応えてくれるのか、それとも、まだ見知らない政治家が新たに台頭してくるのか……。
それを見届けることは私には難しいかもしれない。また、私は祖父や父が政治家であったにもかかわらず政治家にはならなかった。我が上司・後藤田正晴さんからも何度も「なれ」と命令されたものの、そればかりは抵抗し固辞してきました。その理由も本書で述べているので、ここでは省きますが、政治家にはならなくとも、一官僚として、一国民として、また、士族の末裔として、健全なる国家意識を持ち、国難に直面してもひるむことなく国益のために粉骨砕身してきたつもりです。
変な譬えですが、昔見た米映画「アパッチ族の最後」「モヒカン族の最後」を最近思い出しもします。白人に追い詰められ圧倒的少数派になったインディアン族の悲劇の物語として鑑賞することも可能ですが、私のような「(旧)士族」や「内務官僚」や「政治警察」出身者というのは、民主主義の時代にあっては、もはや「インディアン族」以上に「少数派」となってしまい、時代遅れなのかもしれません。しかし、このDNAは、どこかで「政治家」にも引き継がれるべき資質であると私は信じています。
ともあれ、これが私の「最後の著書」となるかもしれませんが、少なくとも本書で何度も強調したノーブレス・オブリージュの精神を持った政治家たちが、これからの日本を背負っていくことを、滅びゆく士族の末裔の一人として、「老兵」として強く期待したいものです。
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