ノーベル文学賞の最有力候補と報じる新聞も
パティ・スミスは「ニューヨーク・タイムズ」紙上の記事(前出)で、「従来の読者だけでなく、初めて村上作品を読む人にも適した小説」と評し、さらに以下のように論じる。
「『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、一見、『スプートニクの恋人』や『ノルウェイの森』と近しい小説のように映るが、実際にはそうではない。また、本書には『1973年のピンボール』のようなエネルギッシュな情感も、傑作『ねじまき鳥クロニクル』のような多次元構造も見られない。小説の随所にかすかに香るリアリズム、とくに夢を通じてのそれは『1Q84』に、音楽への深い敬意と儚く危うい世界観は『海辺のカフカ』に通底するものである」
アメリカでは他に、「ワシントン・ポスト」「フィナンシャル・タイムズ」「シカゴ・トリビューン」の大手紙、「ニューヨーカー」「ザ・アトランティック」などのクオリティ誌、それに「マイアミ・ヘラルド」や「セントルイス・ポスト=ディスパッチ」といった地方紙までが軒並み書評を掲載。まさに全米制覇の感があった。
一方、イギリスでは老舗の「ガーディアン」紙(8月6日)が書評の冒頭から、「ジョン・アップダイクと村上春樹と“スエーデン産の勲章と小切手”」を三題噺風に展開。
――「自身は生涯受賞できない運命なのではと危惧していたジョン・アップダイクは、『Bech at Bay』(1998年)で著者の代理ともいえるヘンリー・ベックに、“スエーデン産の勲章と小切手”」を受賞させた」が、村上春樹の新作には、同賞でも「『もらわない限り金持ちになれない』と嘆く物理学の学生が登場する」。
“スエーデン産の勲章と小切手”とは、いわずと知れたノーベル文学賞のことである。
「ガーディアン」の書評は最後に、村上春樹の「ノーベル賞受賞が、アップダイクのごとく著者の小説の中だけにとどまるとしたら、とてつもなく残念」と締めくくり、10月9日に発表される本年度のノーベル文学賞にふくみをもたせた。
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の「ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー・リスト」最新順位は14位。「USAトゥデイ」紙が「ノーベル文学賞の最有力候補者」(8月23日)と評した著者に、この秋、“スエーデン産の勲章”は授与されるのか?
事の次第によっては、同書がベストセラー・リストのトップに舞い戻る日も近い。
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村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
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2012.10.15文春写真館 -
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2009.05.18文春写真館
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