芥川に褒めてもらう自信、それはないです
──芥川龍之介にあこがれて小説を読み始め、小説家になられたということですが、芥川賞を受賞した今、芥川龍之介にはどんな言葉をかけてもらいたいですか?
又吉 芥川はおそらく僕みたいな髪型のやつ嫌いやと思うんですよ。
(場内爆笑)
又吉 芥川が、ベートーベンのことを「あいつは天才ぶってる」みたいな感じで書いているのがあって、それがすごく印象深いんですよね。僕はベートーベンは顔の表情と髪型はあれでいいと思ってたので。それくらいすごい厳しい一面を持ってるということだと思っていたので。でも芥川は、言われてみるとそうなんかなと思わせる説得力のある方なので、おそらく僕のことは、「又吉嘘つけ、この髪型、それっぽいからやってるんちゃうか」みたいなことを言われそうな気がします。
──褒めてもらえそうにない? 褒めてもらう自信は?
又吉 褒めてもらう自信、それはないです(笑)。
──お笑いの世界にはにいさんとか師匠とかいっぱいいらっしゃるわけで、ひょっとしたらそういう方々からこれから先生と呼ばれることもあるかと思いますが、そのあたり考えていることはありますか? 先輩にどう報告しようかと考えていることなどは?
又吉 もちろん皆さん僕のことをふざけて「先生」みたいに呼ぶケースはあると思うんですけど、本気で先生と呼ぼうとしてるのは相方の綾部だけやと思います。その辺は安心してます。いろんな先輩が声をかけてくださって「『火花』読んだで」と言ってくださるんで、それは本当に感謝してます。
──今回受賞してしまったことで芸人としてやりづらさがあるとか不幸が生じると思うことがあれば。
又吉 注目していただくのは芸人としてありがたいことなので、不都合は今のところないのと、あとはコンビでやってるのでないと思います。
──綾部さんとは受賞した後、連絡を取りましたか?
又吉 綾部は今仕事中らしくて、でもコメントはくださったみたいで。今、なぜか敬語を使ってしまいましたけど(笑)。
──芥川賞にノミネートされた時点から受賞の自信は多少はありましたか?
又吉 芥川賞の候補にしていただけるという連絡をいただいたときは驚いたのと、うれしかったという気持ちだけですね。正直、受賞の自信はなかったですね。
──多少はどうですか?
又吉 なかったですね。
──ゼロですか?
又吉 ゼロですね。でも、とは言いつつ、今日は朝から緊張したりしてたのでなんかもしかしたらどこかには期待してた部分はあったのかもしれません。
──作品を書き始めて、書く前と書いた後でお気持ちの部分で変わったこと、あるいは生活も変わったということがあれば教えてください。
又吉 小説を書く前はすごく怯えてもいたんですが、急に書きたくなって書いたんですが、書いてるときはすごく楽しかったですね。あ、小説を書くのっておもしろいんやな、広い表現というかいろんなことができる分野やなあとすごく感じました。生活の面では小説がすごく注目していただいていろんなところで取り上げていただいて、街を歩いていても「『火花』読みましたよ」と声をかけてくださる方が多いので。今まで死神死神言われてた感じとはちょっと変わったかなという感じですね。
──これから芸人と作家の比重はどのような形にしていきたいですか?
又吉 今まで通りですね。芸人を100%やってそれ以外の時間で小説を書くというのをずっとやってきたので、その姿勢みたいなものは崩さんようにしようと思ってます。
──それはなぜ?
又吉 それが1番、どちらにとってもいいと思うから。(質問者に向かって)納得の行く顔をしてないですね。なんていうのかな、毎月お笑いライブをやってるんですが、それをやりながらそこで生まれてきたものとか気づくこととかお笑いやコントで表現できひんこととか、そういうものがそのまま小説には使えないんですが、どこかに残ってて、それがやっぱり文章を書くときにどこかににじみ出ることが多いので、すごく必要なことなんです。
──次に書きたいものというのがあったりするんでしょうか?
又吉 書きたいという気持ちは本当にありますね。