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感動だけではない、心に残る映画<br />『悼む人』原作者の天童荒太さん

感動だけではない、心に残る映画
『悼む人』原作者の天童荒太さん

「本の話」編集部


ジャンル : #小説

左から、堤幸彦監督、貫地谷しほり、石田ゆり子、高良健吾、大竹しのぶ、天童荒太氏。

 80万部を突破した直木賞受賞作を映画化した『悼む人』の完成披露試写会が、1月26日に都内で行なわれました。

 高良健吾さん演じる主人公・坂築静人は、事故や事件に巻き込まれて命を落とした人々を亡くなった現場で「悼む」ため全国を放浪している若者。

 夫を殺害し、出所したあと静人と出会って行動を共にするようになる奈義倖世を演じた石田ゆり子さんは原作を読んで強い感銘を受けたといいます。

「私は天童荒太さんの書かれた原作がとても好きで、何年か前にはじめて読んだときに心をとても鷲づかみにされてしまい、これがいつか映像化されるときが来たら是非参加したいと自分で立候補しました。普段そういうことをするタイプではないので、私も本当に大胆なことをしたと思いますが、ここに立っていることができるというのはあの時大胆な行動に出たからだと思って無鉄砲な自分をほめてあげたいと思います」

 堤幸彦監督は天童荒太原作の『包帯クラブ』(2007年)でもメガホンを取っているが、今回はスタッフも新たに取り組みました。

「僕のなかでは再デビュー作と言ってもいい作品だと思います。明らかに今までの作風を変えるパワフルな映像が撮れた。編集にすごく悩みました。いつもの3倍、4倍という時間をかけても、まだ終わらない」

10回試写を見て10回泣いたという原作者の天童さん。映画館にはハンカチが必携のようだ。

 原作者の天童荒太さんは、この映画を誇りに思うと、次のように挨拶しました。

「見も知らない遠い土地の、見ず知らずの人にも、愛し愛された人がいて、誰かに感謝されていたりする。そういうことに思いを馳せるかたちで、共に生きるという意識を持つことが、新しい世界の平和の礎になり、幸せのよすがにもなるのではという思いがあってこの作品を書きました。その間に9.11があり、3.11があり、そして今も悲しい事件が続いているわけですが、だからこそいっそうこの世界に坂築静人がいて欲しいという思いです。

 我々は、失われた命が、どんな人だったか知っていただろうか。本当に平和を考えたり幸せを考えていくなら、失われたのはこういうかけがえのない人だった、愛と感謝の名において悼まれるべき、尊ぶべき人だったということを思い続けていくことこそが、遠回りでも今の世界に平和という実を結んでいくのではないか。

 この映画は決して声を荒らげることも、押しつけがましくもなく、むしろ自分の至らなさに恥じ入りながら迷いながら、でも人間が好きだから、生きていることを尊びたいから、懸命に人を悼み続ける。そんな思いが表現されている。世界でもこういう思いをもって人を尊ぶ映画は初めてです。こういう映画が作られたことが、しかも日本が世界に向けて発信できるということが、誇りでもあり幸せでもあります。

 映画には上映時間など様々な制約があるので、原作のファンのなかにはもしかしたらイメージと多少違うと感じられる方がいるかも知れません。でも、スタッフ、キャスト全員が、原作への深いリスペクトをもって製作に当たってくださいました。「悼み」をひとりでも多くの方に届けたいという想いが、スクリーンから皆さんへとあふれていくと思います。

 今回ほとんどの役が、これまでに誰も演じたことがない難しい役柄です。ここにいる俳優のみなさんは、それぞれ役を演じるということ以上に、生きるということを見据えて素晴らしい表現をされています。敬意に値するクリエイティブな仕事をされています。この映画を皆さんに見ていただくことが、本当に幸せと思っています」

 さらに、『悼む人』は「大人の映画」だと、次のように語っています。

「編集段階や英語字幕版の監修なども含めて10回くらいみていますけど、その都度涙が抑えられませんでした。決して泣かせる映画ではない。愛の美しさだけでなく醜さも含めて、真実を深く描いているからこそ感動する。愛する者の死に対する向き合い方を、世界初のかたちで、提示しているからこそ揺さぶられる……。この映画はR-15指定がついています。それは、人間の愛とか、生きるとか死ぬとかを表現するときには避けては通れない、性的な描写とか暴力描写があるからですけど、私自身はこの映画は精神的なR-15ではないかと思っています。

 この映画はこの現実にある、この世界にある、わりきれなさややりきれなさ、愛や死といった元もと複雑なものを、流行のデートムービーのようにわかりやすく単純化せずに、しっかり受け止めて、丁寧に悩んで、丹念に迷って、大人たちが、表現家たちが、必死に、魂をすり減らすようにして考え抜いて作った作品です。

 近年これほどの深みと厚みをもつ映画はまれなので、すべての人が、一度みただけで完全に理解していただけるかどうかは分りません。でも、率直な感動だけではない、これはなんだろうという不思議な感覚、言葉にはできない感情や感覚、そういうものが皆さんの心に残ったならば、それこそが宝物になる。宝物の花が咲く、その芽なんだと思います。二度三度みて、あるいは時間をおいてからみて、皆さんの胸に残った大切な花の芽を育てて行ってくださることを心から願っています」

 これを受けるように、主演の高良健吾さんも映画の深い味わいについて語りました。

「答えが見つからないとかで全然よくて、この映画は時間が育ててくれる、そういう映画でもあると思います。誰かに愛されて、誰かを愛していて、誰かに感謝されていることを皆さん、感じていただけると思います」

 映画『悼む人』は2月14日全国公開。原作の『悼む人』(文春文庫)は全国の書店で発売中です。

映画『悼む人』
2015年2月14日(土)ロードショー
http://www.itamu.jp/

悼む人 上
天童荒太・著

定価:本体590円+税 発売日:2011年05月10日

詳しい内容はこちら

悼む人 下
天童荒太・著

定価:本体570円+税 発売日:2011年05月10日

詳しい内容はこちら

静人日記 悼む人II
天童荒太・著

定価:本体680円+税 発売日:2012年10月10日

詳しい内容はこちら

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