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何気ない日常に潜む謎と巧緻な仕掛け、深い心理描写が秀逸の短編集

何気ない日常に潜む謎と巧緻な仕掛け、深い心理描写が秀逸の短編集

文:山内 昌之 ,文:片山 杜秀 ,文:中村 彰彦

『小さな異邦人』 (連城三紀彦 著)

出典 : #文藝春秋

ストーカーに震え上がる

片山 おかしな表現ですが、日活ロマンポルノの良作のような作品ですね。幻想的で上品だけど艶めいている。また、『もどり川』(原作名は『戻り川心中』)や『恋文』、『離婚しない女』といった神代(くましろ)辰巳監督作品など、映画化された作品も多かったですね。

中村 若い頃、映画の脚本家を目指してフランスに留学したことは、彼が女性心理を描くのを得意としたことに影響があったかもしれません。そして、彼の育った環境の影響でしょうね。連城さんは女兄弟のなかで男の子1人。ご実家はお寺だったのですが、早くにお父様が亡くなられて、戦後の混乱期に、お母様が広い庫裡を改装して、お女郎さんを下宿させていたらしいのです。女ばかりの環境で可愛がられたことが、創作に生かされたのでしょう。

 しかし、当の本人は、女性が近づいてくるだけで震え上がってしまうようなシャイな人でしたから、生涯独身のままでした。

 連城さんには女性ファンが多かったのですが、ある日、ある作品中の女性を自分のことだと思い込んで、彼のマンションに、トラックで花嫁道具を一式送りつけてきた女性がいた(笑)。

片山 いまでいうとストーカーですね。

中村 普通は激怒するところ、彼はむしろ恐怖で震え上がってしまったんです。そのときの怯えっぷりといったらなかった。そのことを「手枕さげて」という短編に書きましたから、さすがは作家だと思いましたが(笑)。

山内 いまのお話で少し腑に落ちたところがあるのですが、この作品集を読んで、女性の登場人物にどこか人工性をもつ幻想的な雰囲気を感じてしまう。生々しさがないという印象を持ったんです。つまり、泉鏡花のようなロマンティシズム、想像力によって女性を描いているのですね。

中村 そこも女性読者に愛されたゆえんかもしれません。大正や昭和のはじめの遊郭などの空気を描くと、右に出る者はいなかったと思います。

 すごいなと思ったのは、おそらく最後まで、400字詰め原稿用紙にサインペンで書いていたと思いますが、字引も引かないで、1字も間違いなく原稿を書くんです。そして、編集部にファックスで送ったら、その原稿は見るのも嫌だと破り捨ててしまう。まさに異才でしたね。この作品集では、久しぶりに連城ワールドを堪能しました。

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