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ベールに包まれた舞台裏に迫る

ベールに包まれた舞台裏に迫る

『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』 (鵜飼哲夫 著)

出典 : #週刊文春

太宰治をめぐる因縁

わたやりさ/1984年京都市生まれ。2001年「インストール」で文藝賞を受賞。04年「蹴りたい背中」で史上最年少の19歳で芥川賞受賞。『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。

綿矢 芥川賞って受賞した人のプロフィールがすごく注目されませんか? この本の第四章に「主婦の受賞」とありますが、「この人、誰?」というのがニュースになると思うんです。

鵜飼 芥川賞と直木賞は同時に発表されますが、綿矢さんのときの直木賞は、京極夏彦さんと江國香織さんでした。お2人とも受賞前から人気作家でしたが、芥川賞はほぼ無名の人が受賞するので、マスコミにとってニュース性も高く、取材のし甲斐もあります。

綿矢 第五章の「該当作なし!」の章は特に面白かったです。口を開けば「なしです」だった開高健とか。なかでも私は川端康成がカッコいいと思いました。選評の枠を超えて文学論になっているし、すごいいい文章を書いてはると思います。

鵜飼 それはうれしいな。僕も川端の選評はいいなと思って、結構引用しました。

綿矢 「作風の大体安定した中年の芥川賞委員など、新人に取ってはなんでもないはずだ」。これって新人作家を鼓舞しながら選考委員を斬ってますよね。文学というものを湿り気なく一刀両断してる感じがする。

鵜飼 川端が選考委員を引退してから、厳しい委員が多く、なかなか賞が出ない「芥川賞・冬の時代」がありました。そのときに候補になっていたのが村上春樹さん。ご存知の通り村上さんは受賞を逃しています。

綿矢 村上さんをめぐる選評も紹介されていましたが、なるほどと思いました。

うかいてつお/1959年名古屋市生まれ。中央大学法学部卒業。83年読売新聞社入社。91年から文化部記者として文芸を主に担当。書評面デスクを経て、2013年から文化部編集委員。

鵜飼 吉本ばななさん、渡辺淳一さん(後に直木賞を受賞)なども受賞を逃していますが、候補作はレベルが高い。また戦前の候補作は掘り出し物揃いで、中でも「梟」「鶯」などの作品を残した伊藤永之介はいい。

綿矢 そうなんや。

鵜飼 厳しいことで有名だった石原慎太郎さんは、綿矢さんの受賞時の選評で「この現代における青春とは、なんと閉塞的なものなのだろうか」と書いてました。綿矢さんは選評を読んでショックを受けたりしました?

綿矢 いえ、読んでいただけただけでありがたい気持ちでした。むしろ辛いのは論評されないことだと思う。無視されるよりは顰蹙を買うほうがまだマシ。それだけ読んだ人の心を動かしたということになりますから。

鵜飼 綿矢さんは文學界新人賞の選考委員をされてますよね。

綿矢 選ぶ側って難しいですね。理解できない作品についての違和感を正直に選評に書く筋肉がまだ足りないと思っています。

鵜飼 巻末に芥川賞受賞作と候補作の一覧をつけたんですが、綿矢さんの好きな芥川賞作品は何ですか?

綿矢 村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」。あと大道珠貴さんの「しょっぱいドライブ」も好き。大江さんの「飼育」と古井由吉さんの「杳子」も。

鵜飼 これから読んでみたい作品はありますか?

綿矢 恥ずかしいんですけど、まだ松本清張の「或る『小倉日記』伝」を読んだことがなくて。坂口安吾が選評で絶賛してると知って、読んでみたいと思いました。

鵜飼 清張は太宰と同じ1909年生まれですが、デビューは太宰の没後です。

綿矢 太宰と因縁があるんですね。

鵜飼 そして太宰の候補から80年目の今年、太宰ファンの又吉直樹が注目を浴びるという因縁もある。

綿矢 芥川賞からどんなドラマが生まれるか、楽しみですね。

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