先月、「ユーロサトリ(国際兵器展)」がパリで開催され、日本の防衛メーカーが始めてセールスを行い、ブースは人だかりとなったという。また今月には、自衛隊の次期主力戦闘機に決まった米メーカーのF35について防衛省は、アジア地域の整備拠点を国内へ設置検討中という。これらのニュースは、日本の防衛産業が世界トップレベルであることを物語っている。
しかし、日本のマスメディアは、安全保障議論には精通しているが、防衛産業の世界にほとんど人脈を持っていないし、積極的に開拓しようという努力もほとんど皆無だ。
冒頭から、アクション小説なのか、と思っていたらそれには非(あら)ず。読み進めるにつれ驚愕した。日本の防衛の根幹を支える自衛隊と防衛メーカーで生き抜く男と女を余りにもリアルに描き、これまでまったく存在しなかったドラマに仕上げている。
一度も聞いたことがない専門用語群は“無慈悲”に頭に突き刺さる。だが、余りにもリアルなディテールとキャラが立った登場人物の描写に、否応なくストーリーにのめり込んでゆく。
国の防衛予算がどのように決まって、どのように防衛装備が決まってゆくのか、その伏魔殿というべき世界に赤裸々に切り込んでいるのも興味を引くはずだ。メーカーが出した報告書を防衛省が〈案の定、細かい修正を指示してきた〉とするくだりをさりげなく書けるのは著者だけだろう。
しかし、この作品の特筆すべき点は、“技術屋サスペンス”という新境地を開いたことだろう。著者の経歴から専門家であることが窺えるが、「ユーザー」や「開発」といった専門用語にひたすらこだわる点は益々このミステリーに引き込まれる要素となる。特に、自衛隊用語の「形態」という言葉を何度も登場させるために、携帯電話をカタカナで表記する拘(こだわ)りもみせている。専門用語にも果敢に浸りきり、未知の世界にどっぷり漬かれば、これまで体験したことがない快感に痺れるはずだ。
後半、〈ほぼ一〇〇パーセント有り得ない脅威からの攻撃に備えて、日々膨大な経費を使って訓練をしている自衛隊の隊長の言葉とも思えない〉という文章の先に、〈防衛という概念そのものに関わる問題だ〉との一文がある。
集団的自衛権の論議が続く中、いかなる現実を覚悟すべきなのか、一般には窺え知れない部分が多い。是非、著者には、その“現実”を描ききる作品も期待したい。
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