世界は大国アメリカに振り回される。この繰り返しです。
こうしたトランプ大統領の勝手気ままな行動に振り回されてきた世界は、アメリカ離れを指向するようになりました。二〇一七年五月のサミットでトランプ大統領の言動に翻弄されたのがよほど頭に来たのでしょう。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が、サミット直後、「ヨーロッパが他国を頼れる時代は過ぎた。ヨーロッパは運命を自身の手に委ねなければならない」と演説したのです。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の方針は、世界のアメリカ離れを促し、アメリカにとってマイナスばかり、ということになる気配です。実に皮肉なことです。
アメリカでトランプ大統領が誕生したことで、ヨーロッパでも「自国第一」の動きが進むかと思われましたが、アメリカでの混乱を見たせいでしょうか。オランダの議会選挙では、当初予想されたほどには極右勢力が伸長しませんでした。
また、フランス大統領選挙では極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が決選投票まで進出しましたが、中道派のエマニュエル・マクロンが選挙を制し、大統領に就任しました。世界を覆うかと見られた一国主義の動きが、いったんは止まったかに見えます。
本書がまとめられたときは、イラクとシリアで自称「イスラム国」(IS)が勢力を拡大している最中でした。その脅威に世界は脅えました。しかし、あまりに過激な方針は支持が広がらず、アメリカの支援を受けたイラク軍とクルド人民兵、ロシアとイランの支援を受けたシリア政府軍による包囲網によって勢力を弱めつつあります。
とはいえ、ISの影響を受けた人物が、ヨーロッパ各地でテロを繰り返しています。たとえISが消滅しても、テロはなくなりません。軍事力で対抗できることには限界があります。中東問題の解決や欧米社会の反イスラムの動きの抑制などイスラム過激派が生まれる土壌を少しでも減らしていくこと。時間はかかりますが、それしか方法はありません。
そのとき日本に何ができるのか。考えて参りましょう。
文庫化に当たっては、児玉藍さんにお世話になりました。
二〇一七年六月
ジャーナリスト・名城大学教授 池上 彰
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