本書は、時代を先読みするユニークな作品であると自負している。同時にほんの少しだけ(ほんの少しだけであることが重要だが)、時代の流れに逆行している。池上彰氏とのタッグを組まなくては、この本はできなかった。
私と池上氏は、現在、二正面作戦を強いられている。第一正面は、日本を徘徊する反知性主義という妖怪との戦いだ。高等教育を修了し、司法試験、国家公務員総合職試験などの難しい試験に合格した人でも、反知性主義に足をすくわれることは珍しくない。
反知性主義とは、客観性、実証性を軽視もしくは無視して、自らが欲するように世界を理解する態度をいう。反知性主義者は知性を憎んでいる。それだから、客観的かつ実証的なデータを示しても、「それが何だ。僕/私はそう思わない」と言って、自分の殻に閉じこもってしまう。殻に閉じこもるだけでなく、「学問をするとバカになる」などと言って、「無学の知」を商売にする有識者も出てくる。
第二正面は、反知性主義とは、一見反対に見える、極端な実学重視の傾向との戦いだ。今年(二〇一五年)六月八日、文部科学省は、全八六の国立大学に、文科系を中心に既存の学部などを見直すよう通知した。社会に必要とされる人材が育成できないならば、廃止や分野を転換しろと促している。
〈通知は「特に教員養成系や人文社会科学系学部・大学院は、組織の廃止や社会的要請の高い分野に転換する」ことを求めた。例えば、人文社会系の卒業生の多くがサラリーマンになるという実績を踏まえ、大学は地元で必要とされている職種を把握。需要にあった人材を育てる学部に転換するなどといった想定だ。/文科省によると、自然科学系の研究は国益に直接つながる技術革新や産業振興に寄与しているが、人文社会系は成果が見えにくいという。国立大への国の補助金は計一・一兆円以上。子どもが減り、財政事情が悪化する中、大学には、「見返り」の大きい分野に力を入れさせるという考えだ〉(「朝日新聞デジタル」二〇一五年六月八日)
文科省は、経済界の要請に応えて、即戦力になる人材を求めているのであろう。もっともすぐに役に立つような知識や技術は、賞味期限も短い。どうもそのあたりの現実が文科省にも経済界にも見えなくなっているようだ。実は、このような「高等教育の実学化」の嵐がフランスでナポレオンの時代に吹き荒れた。その影響がドイツにも及んだ。この流れに抵抗したのが、ベルリン大学神学部教授で、著名なプロテスタント神学者のフリードリヒ・シュライエルマハー(一七六八~一八三四)だった。東京大学名誉教授で哲学者の山脇直司氏はこう述べる。
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