本書はアメリカのミステリ作家ジャック・カーリイのカーソン・ライダー・シリーズ第九作The Killing Game (HarperCollins, 2013)の全訳である。
アメリカ南部、アラバマ州モビール市を舞台に、異常な犯罪の捜査を専門とする刑事カーソン・ライダーを主人公とする本シリーズは、第一作『百番目の男』以来、日本で高い人気を誇ってきた。人気の理由は、カーソンの一人称による瑞々しい語り口や、相棒である(ファッションセンスが最悪の)ベテラン刑事ハリーをはじめとするキャラの魅力などに加えて、カーリイのミステリ作家としてのセンスが抜群だからである。
現代ミステリの意匠のなかで巧妙な謎解きやサプライズを演出してみせる作家に、ジェフリー・ディーヴァーやマイクル・コナリー、リー・チャイルドやジム・ケリーらがいるが、ミステリとしての仕掛けの巧緻さやフェアプレイの点で、カーリイはディーヴァー以上であり、ケリーやコナリーと肩を並べる。
そもそもデビュー作『百番目の男』からして非凡だった。かの殊能将之氏が「変態本格ミステリ・ベスト5」(http://honyakumystery.jp/1275926495)の筆頭に選んだ作品で、その基本アイデア(というかトリックというか)は、殊能氏をして「唖然とするような犯人の動機」「これをデビューのネタに選んだ勇気に感動」と言わしめた強烈な破壊力を誇るものだった。
つづく第二作『デス・コレクターズ』は、『百番目の男』のような飛び道具を使わず、一見するととりとめのない断片に見えた謎やエピソードが、まるで立体パズルのように収束する複雑なミステリに仕上がっており、二〇一〇年には、日本の本格ミステリ作家クラブが二〇〇〇年から二〇〇九年の十年間に翻訳されたミステリのなかから選んだ最優秀作の栄誉に浴している。
代表作と名高い『ブラッド・ブラザー』も、すべてを結末から逆算したかのように構築された完全犯罪計画で高く評価されたし、それ以外の作品でも、ごくふつうの異常殺人サスペンスのようなストーリーのなかに意外な伏線や奇抜な動機を仕掛けて、ミステリ・ファンをうならせてきた(個人的には『イン・ザ・ブラッド』での主人公カーソン自身の心理状態に関する謎とトリックが気に入っています)。