ミステリの世界で昔から扱われてきた古典的な謎、いわゆる「失われた鎖の環」が本書のテーマだ。もちろん著者ジャック・カーリイは「そういうことか!」という意外な真相を見事に提示してみせる。意外な真相へとつながる手がかりや伏線は、いくつものエピソードの網の中に巧妙かつ大胆に仕込まれているから、真相を論理的に推理することも十分可能。真相がわかった瞬間のインパクトは、いかにもカーリイらしく、読者を唖然とさせるものである。
しかも、それだけではない。もうひとつの驚きが本書には仕掛けられている。これについては多くは語らないが、そこで読者は全体の構図が電撃的に反転するショックを味わうだろうし、またカーリイが静かに仕込んできた企みを再確認するために本書を二度読みしたくなるだろうと記しておきたい。この驚きを演出する仕込みの周到さと、この真相が判明したあとの扱い方は、ミステリとして相当にヒネったもので、数多くのカーリイ流ミステリのなかでも、本書がとりわけ“攻めた”ものだという所以である。
もちろん、今回も主人公カーソンの生活は楽しくカラフルだ。歪んだ精神の生み出す犯罪を描きながらも、このシリーズが重くなりすぎないのは、カーソンの明朗な性格と、その語りの軽妙さによる。本書冒頭のコンビニでの一幕は快い驚きがあって楽しませるし(これがのちに大きな厄介の種にもなるが)、期間限定で講師を務めることになったポリス・アカデミーでの奮闘記も読ませる(そしてこれもさらに大きな厄介の種になるのだ)。もちろん、おなじみの脇役の活躍はシリーズのファンの期待にきっちり応えてくれるし、一部に熱烈なファンのいるあのひとも、ちょこっと登場します。
さて、すでにお読みになったかたならおわかりのように、本書には「ファースト・シーズン最終話」のような趣がある。もちろんカーリイはシリーズを終わらせてしまったわけではなく、次ページに掲げる作品リストにあるように、すでに四作の新作が発表されている。
欧米のミステリ界では稀なミステリ・マインドを持つ作家ジャック・カーリイ。ディーヴァーやマイクル・コナリーを継ぐ、その華麗なミステリ技にご注目いただきたい。
ジャック・カーリイ著作リスト(すべてカーソン・ライダー・シリーズ)
1 The Hundredth Man (2004) 『百番目の男』
2 The Death Collectors (2005) 『デス・コレクターズ』
3 A Garden of Vipers (2006) 『毒蛇の園』
4 Blood Brother (2008) 『ブラッド・ブラザー』
5 In the Blood (2009) 『イン・ザ・ブラッド』
6 Little Girls Lost (2009)
7 Buried Alive (2010) 『髑髏の檻』
8 Her Last Scream (2011)
9 The Killing Game (2013) 『キリング・ゲーム』※本書
10 The Death Box (2013)
11 The Memory Killer (2014)
12 The Apostle (2014)
13 The Death File (2017)
*邦訳はすべて三角和代訳、文春文庫
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