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二度読み必至! 現代本格ミステリの名手、会心のクセ球

二度読み必至! 現代本格ミステリの名手、会心のクセ球

文:編集部

『キリング・ゲーム』(ジャック・カーリイ 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 そんなカーリイが、本書『キリング・ゲーム』で、いつも以上に“攻めた”ミステリを送り出してきた。

 いつもは主人公カーソンの「僕」一人称で語られる本シリーズだが、『キリング・ゲーム』では犯人グレゴリーの視点によるパートが随所に挟み込まれていて、本編もグレゴリーの視点で幕を開ける。

 グレゴリーはひとりで暮らす家でTVを見ながら、そこに映る俳優の表情を仔細に分析し、真似てみる。彼のなかには「リラックスした顔#1」とか「静かな顔」「しあわせ#4」といったふうに独自に名前をつけた表情のストック(いずれも広告の写真などから借用したものだ)があり、それを然るべきときに顔に浮かべる。グレゴリーには自然な感情と結びついた表情というものがないわけだが、この男の奇妙さはそれだけではない。

 グレゴリーにはエマという姉がおり、定期的に朝食をともにする。エマはごくふつうに朝食を平らげてゆくが、グレゴリーは「食べ物/食べること」について異様な嫌悪感を抱いている。そんな奇妙で狷介な生活のなかで起きたある事件をきっかけに、グレゴリーは警察を相手にした殺人ゲームを開始することになる……

 一方カーソン・ライダーは、矢のようなもので殺害された女子学生の事件を担当することになったが、直後に黒人居住区で幼い少年が何者かにナイフで刺されて発見された。まったく別個の事件と思われたが、ある手がかりが二つの事件を結びつけ、事件は連続殺人であることが判明する。

そして第三の殺人が発生。犯人から届けられた手紙は、この連続殺人はカーソンへの挑戦だと示唆するものだった。事件発生の原因になったと後ろ指を指され、また悲しみに沈む犠牲者の遺族からも非難されつつ、カーソンは相棒ハリーとともに事件解決のために奔走するが、被害者のつながりはさっぱり見えてこなかった。人種も、年齢も、職業も、何もかもがバラバラだったのだ。

 これは完全な無差別殺人なのか。しかしカーソンは無差別殺人というものを信じない。そこには必ずつながりがある。たとえ犯人が狂気に駆られていたとしても、そこには必ず何かのロジックがあるはずだ。それは何なのか――?

 五里霧中の捜査を強いられるカーソンと、奇妙な行動をつづける殺人者グレゴリー。この二つの線はどういう関係にあるのか。どう交差するのか。そこが本書の読みどころとなる。やがてグレゴリーとエマが、かつてチャウシェスク独裁政権下のルーマニアの孤児院におり、のちにアメリカに渡ってきたことが明かされる。幼い頃のグレゴリーはそこで異常な心理実験の実験台にされていたのだった。そこで歪められた彼の精神が、何に駆りたてられ、なぜ殺人を犯すのか――

文春文庫
キリング・ゲーム
ジャック・カーリイ 三角和代

定価:1,023円(税込)発売日:2017年10月06日

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