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〈恐怖の帝王〉スティーヴン・キング、その続編にして集大成にして新境地!

〈恐怖の帝王〉スティーヴン・キング、その続編にして集大成にして新境地!

文:有栖川 有栖 (作家)

『ドクター・スリープ』(スティーヴン・キング 著)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

「読んでいないが映画で観た」とおっしゃる方にお断わりしておくと、当然ながら映画には改変が施されており、しかもそれに原作者キングはいたく立腹していた(いや、まだ怒っているらしい)。あまりに不満だったので、自身が脚本を書いてドラマにリメイクしているほどだ。

 ジャックの内面、ホテルの在り様、ダニーの超能力などの描き方が原因だが、ラストにも大きな違いがあるので、未読の方にはご一読をお薦めしたい。力ずくで物語を結ぶキングにしては珍しく(?)伏線が周到で、「そりゃ、そうなるわな」という壮快なカタルシスが味わえる。

『シャイニング』は、もはやモダンホラーの古典的名作だ。キングがキューブリック監督の仕事を強く否定したのも、小説が会心の出来であったからこそであろう。続編を書こうと考えた経緯については、〈作者のノート〉に詳しい。続編執筆はキング自身にとっても思いがけない事態だったらしく、ファンとしては驚くばかりだった。

 驚きながら「あれの続編をどう書くのか? 無理はしないでもらいたい」と案じたりもしたが、そんな心配は〈ホラーの帝王〉に無用であった。決着がついたと思ったらついていませんでした、などと前作の余韻を損なったりはせず、作中の時間は大きく飛ぶ。

 ダニーは中年になっている。他人にない〈かがやき〉は彼を幸福にはせず、むしろ生きる上で重荷となった。ホラーやSFに登場する超能力者にはお馴染みの哀しい定めだ。しかも、父をあれほど苦しめたアルコール中毒に彼も悩まされ、オーバールックホテルでの恐怖の記憶が甦ることもある。

 つらい運命を背負ったダニーが、ホスピス職員となって死にゆく人たちに寄り添っていることは、自他にとってせめてもの救いと言える。タイトルの〈ドクター・スリープ〉とは、そんな彼についた職場での仇名だ。

 あまりにも孤独なダニーだったが、ある時、自分と同様の能力を持つ少女アブラの存在を知る。遠く離れた町で暮らしていても、二人の能力は距離を超えて感応し合えたのだ。しかし、それは新たな恐怖の幕開けでもあった。距離を超える能力は、子供の〈かがやき〉=〈命気〉を生きる糧とする〈真結族〉にも伝わり、アブラは命を狙われることになってしまう。

 少女の居場所を懸命に探る残忍な魔性の者たち。その危機を正しく理解できる人間はダニーしかいない。じりじりと迫りくる〈真結族〉とダニーの闘いが始まった。

〈ホラーの帝王〉は怖いものを日夜探して、「よし、これでいこう」と決めたら、とことん練り上げて私たち読者に突きつけてくるのだが、今回の恐ろしさは〈隠れんぼ〉や〈鬼ごっこ〉に通じる。物語が進むうちにダニーたちと〈真結族〉の攻防戦の様相を呈していくところが前作『シャイニング』とは趣が異なり、怖いと同時に、とてもスリリングなのだ。

 まだ本編をお読みになっていない方のために、これ以上はストーリーについて言及しない。

 私は、冒険小説的な興味を多分に含んでいるような印象を受けた。予想外ではあったが、ホラー小説としての恐ろしさは充分だし、抜群に面白い。デッサンの緻密な日常描写も、考え抜かれた手順で恐怖を積み上げていく剛腕もいつもどおりで、キング節が満喫できる。

 何しろ、あの『シャイニング』の続編だ。作者としても力が入らないわけがない。下手をすれば、前作が獲得した評価まで引き下げてしまいかねないのだから、『ドクター・スリープ』の執筆自体が巨匠の果敢な挑戦であり、冒険でもあったはず。

ドクター・スリープ 上
スティーヴン・キング 白石朗

定価:本体1,050円+税発売日:2018年01月04日

ドクター・スリープ 下
スティーヴン・キング 白石朗

定価:本体1,080円+税発売日:2018年01月04日

シャイニング 上
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:本体920円+税発売日:2008年08月05日

シャイニング 下
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:本体920円+税発売日:2008年08月05日

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