書評

同時代を生きる現役作家の作品を追いかける最大の愉しみとは?

文: 重松 清 (作家)

『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)

『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)

 大手総合商社のキャリア社員の栄利子と、ダメ奥さんのブログで人気の翔子、一見対照的な、けれど栄利子の言葉を借りれば〈趣味や性格は正反対、でも根本のところで同じ〉二人は、ふとしたきっかけで友達になる。

 とても美しく、幸福感に満ちた情景が、物語の序盤で描かれる。女友達ができないタイプだと自認する栄利子が〈たった一人でも女友達がいるだけで、己の色や形がくっきりとなぞられ、存在に自信が湧いてくる〉と感激にひたる一夜があった。未読の方の興趣を削ぐのは申し訳ないので詳細は省かせてもらうが、すでに本作を読了した方にはすぐに「ああ、あそこだ」とうなずいて、?を自然とゆるめていただけるだろう。

 だが、その幸福感は束の間のものだった。長い物語の中盤、そして終盤に向かって、栄利子と翔子はひたすら追い詰められていく。二人は、あの幸せな夜に確かに〈くっきりとなぞられ〉たはずの〈己の色や形〉、すなわち輪郭を見失ってしまう。
二人の関係は軋み、歪んで、罅割れていく。違う、友達の関係が壊れるのではない、友達という関係が壊すのだ、彼女たち自身を。いや、もっと焦点を引き絞るなら、友達がいなければ、という思いこそが、彼女たちを自家中毒に陥らせ、とことんまで苦しめる。

〈人と人との繋がりの中に飛び込んで、自分の輪郭を確認したかった〉栄利子は、どんなことをしでかすのか。

〈誰かに触れ合って、自分の輪郭を確かめたい〉と希う翔子は、なにをしてしまうのか。

 むろん、それをここで明かすのは野暮の極みである。

 代わりに、問わせてもらおう。友情の始まりにあるものは何なのか。人と人とを友達として結びつけてくれるのは、どんな思いなのか。

 作中で栄利子は思う。〈この世界で何よりも価値があるのは、共感だ〉

 栄利子だけではない。〈誰もが、身をよじり涙を流すほど、共感を求めている。共感するためなら、いくら金を払ってもいいと思っている。共感を求めているからこそ、誰もがネットを手放すことが出来ない〉

 SNSの「いいね」やリツイートを持ち出すまでもなく、この世の中は、誰かに共感されたい思いや誰かに共感したい願いに(時に息苦しさを感じてしまうほど)充ち満ちている。

 共感を、承認や肯定、さらには意訳を許していただくなら「ともにあること」と呼び換えてもいい。

 栄利子は翔子と、ともにあろうとする。共感で繋がり合いたいと求めて、自分たちが〈支え合えれば無敵の二人組になれるってずっと思ってたのよ〉と翔子に訴える。〈私はあなたと二人で、おしゃべりをしたり、共通の何かを楽しんだりしてエネルギーを蓄え、大きなものへ向かっていきたいと思っているよ〉

ナイルパーチの女子会柚木麻子

定価:本体750円+税発売日:2018年02月09日


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