お金があれば幸せだ、ということをもはや誰も信じていない。大金持ちになり、瀟洒な家に住み、豪華な食事をすることが万人の求める幸せではなくなった。インターネットやテレビには、家庭が崩壊してしまった億万長者や、刑務所に入ってしまった成金のニュースがあふれている。
けれども、お金がなくても幸せだ、というのがまやかしであることも皆が知っている。大事なのは富ではなく心の豊かさだ、なんて言葉を信じることができるだろうか。もしそれが本当だとしたら“お金では買えない幸せ”とやらを見つけた人に、もっと出会ってもいいはずだ。
一男は、並んだ三億円の上に胡座をかきながら、お金と幸せの関係について考え続けた。けれども、その答えは見つかる気がしなかった。思わず、福沢諭吉に訊ねる。
「……お金と幸せの答えを、教えてください」
床に並んだ福沢諭吉たちが眉間にしわを寄せ、一斉に考え始めた。唸り声すら聞こえてきそうな熟慮の表情だ。何か答えがあるのかもしれないと、一男はじっと彼らを見つめる。
「それはですな。うーんと、あれですな……」何かを閃いたのか、福沢諭吉が語り出す。「お金と幸せの答えというのは、つまるところ、あの、その……僕もずいぶん長いこと考えてるんだけど、ぜんぜん分かんないの。ごめんね」
間の抜けた妄想が終了し、一男は脱力して三億円の上に寝転がる。ふと下に目を向けると、紙幣の中から福沢諭吉たちが一男を見つめている。
その顔は、まだ答えを探しているように見えた。
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