2018.03.05 特集

【冒頭試し読み】億男

文: 川村 元気

映画化決定! 本屋大賞ノミネート作品、ついに文庫化

宝くじが当選し、突如大金を手にした一男だが、三億円と共に親友が失踪。「お金と幸せの答え」を求めて、一男の旅がはじまる!

『億男』(川村元気 著)

 弟が、妻とふたりの子どもを残して突然消えたのは二年前の大晦日だった。悪いニュースには、さらに悪いニュースがつきもので、弟には三千万円の借金まであった。そのことを知った一男は、借金を肩代わりした。

 お金の問題が、家族のバランスを大きく崩した。いままでやりくりしてきた妻との価値観の違いが、借金をあいだに挟み、次々と露呈した。半年後、妻はひとり娘を連れて家を出て行った。彼女は百貨店で働いており、ある程度の収入があった。それから一年半にわたる別居生活が続いている。

 一男は借金返済のために昼は図書館司書として働き、夜はパン工場のベルトコンベアの前に立つ。合わせて月に四十万円弱の収入。妻と娘、そして自分の生活費以外の二十万円を借金返済に充てる。利子も合わせての完済は、三十年以上先になる。

 借金生活が始まってから、一男は取り憑かれたようにお金にまつわる本を読み漁った。苦境から抜け出す方法を、図書館から見つけようとした。哲学者、神学者、経済学者。投資家、映画監督、詩人。あまたの偉人や大富豪が、お金にまつわる名言を残していた。そのいずれもが示唆に富んでいたが、彼らの人生を調べてみると、例外なく皆がお金に振り回されていた。どんなに賢い人間でも、それをコントロールすることはできない。そのことに気づいた一男は、目の前のすべてを労働で埋めることにした。そうすれば、お金に対する恐怖と欲望から逃れられるような気がしていた。もっと効率のよい稼ぎ方があるだろうにと、友人たちに助言された。けれど、この昼も夜もない生活が、降り掛かった悲劇を紛らわせてくれていた。

「貨幣とは、奴隷制度の新しい形だ」



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億男川村元気

定価:本体680円+税発売日:2018年03月09日