愛媛県今治市に計画された岡山理科大学獣医学部は、開校の条件がすこぶるいい。市が造成した約三十七億円相当のキャンパス用地を無償で譲り受け、施設整備費用百九十二億円のうち、市は愛媛県と合わせて九十六億円を助成すると約束してきた。
これまで半世紀以上も一顧だにされず、新設認可さえ下りなかった獣医学部のキャンパスが、これほどの好条件で認められた背景はどこにあるのか。小泉純一郎政権から続いてきた私学教育の自由化が、さまざまな大学や学部の設置を後押ししてきた側面もある。
だが、加計学園の獣医学部計画は、それだけでは説明できない。第二次安倍晋三政権の下で新たにつくられた「国家戦略特別区域制度」が、閉ざされた道を開いたのは、巷間言われてきたとおりだが、獣医学部の新設は、民泊や外国人労働者の受け入れといった他の経済特区構想とも、事情が異なる。
加計学園の獣医学部新設は、誰にでも開かれた道ではない。まるで加計学園だけのために規制緩和のレールが敷かれ、それに乗ってことが進んできたかのようだ。
それこそが、国民が首相に対して抱いた依怙贔屓疑惑の原点であり、にわかに安倍と加計との不思議な関係がクローズアップされたのは、ごく自然の流れだったといえる。
「国家戦略特区の獣医学部新設は加計ありきだったかどうか」
発覚した一連の文科省の文書問題でもっぱらメディアはそこに目を凝らしてきた。しかし、それはややピント外れと言わざるをえない。
「加計学園が前提なのは共通認識だった」
文書の存在を認めた文科省前次官の前川喜平がそう語ってきたように、政府や今治市、加計学園など当事者のあいだでは「加計ありき」などは自明だった。にもかかわらず、そこに誰も疑問を差し挟んではいない。
また、その文科省が内閣府と闘い、獣医学部の新設を食い止めようと抵抗してきたかのように受け止められている向きもある。だが、それは軌道修正を試みようとした程度だ。文科省文書が書き残された時点で前川たちは、すでに敷かれた「加計ありきの国家戦略特区」というレールに従わざるをえなかった。それが現実に近い。
腹心の友に対する内閣総理大臣の依怙贔屓疑惑には、もっと長く深い歴史がある。五十二年ぶりの獣医学部新設に向けたそのレールを誰が敷き、そこで何が起きていたのか。疑惑の核心はそこである。
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