「お疲れさまです、真壁先生。今日のお話、うかがっていた私も大変興味深かったです。タクシー、待つのも寒いでしょうからよかったら一緒にどうぞ」
という提案に、私はお礼を言って乗り込んだ。
「こちらこそ今日も隅々までフォローしていただいて。森屋敷さんは、たしか麻布のほうでしたよね?」
「ええ。真壁先生のご自宅から先に行ってください」
ありがとうございます、と恐縮すると、森屋敷さんは堂々と
「夜遅いですから。女性は男が送らないと」
と言いながら足を組んだ。車内の暗がりでも、森屋敷さんの革靴は丁寧に磨かれて艶を帯びているのが分かる。
私は笑って、紳士ですね、と言った。
彼は、昭和生まれですから、と笑い返してから、ふと
「そういえば収録前に、あの事件の話をしていたんですよね。真壁先生がご本を書かれるかもしれない、とおっしゃってた」
と思い出したように言った。
「ああ、聖山環菜さんですか。そうなんです。出版社からの依頼で、本人の半生を臨床心理士の視点からまとめるという企画なんですけど」
「そうなんですか。そういうお仕事もされるんですね」
と訊かれて、私は曖昧に首を振った。
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