聴こえてくるラジオを、ぼんやり聴きながら空を眺める。
エアコンの効いた車の窓から、夏空に大きな入道雲が見える。
ふとこの間届いた、本の中に入っていた一枚の手紙を思い出した。
「真夏の入道雲を眺めながら読んでいただきたい…」
あの日、その手紙を読んで、読むのは今日じゃない。
ジャケ買いしたくなるほどの素敵なカバーの絵を見ていっそうそう思った。
大切に読み始めたい。
そっと本棚にしまった青春小説「風に恋う」。
今日みたいな日があの本を読むのに絶好な入道雲日和り。
そうだ、家に着いたら読み始めよう。
わくわくした。家に着いて窓から見上げた真っ青な空、さっきよりも入道雲が大きく感じる。
本棚から「風に恋う」を取り出して読み始めたらもう止まらなかった。
キラキラと輝き、あまりにも眩しすぎるあの人を見て飛び込んだ吹奏楽の世界。目標とする全日本コンクールの金賞。
吹奏楽部の活動が、こんなに大変で、こんなに素晴らしいとは…考えた事もなかった。
部員だけでなく指導者までもが、もがきながらも一生懸命で眩しい。
後半、何度も涙がこぼれた。何度も…
彼等が目標を達成するために過ごして来た日常の葛藤は、私の知る青春時代と似ていたり、かけ離れたりしているけれど、いくつかあった分岐点と重なる部分もあり、懐かしさとその時に出来なかった後悔を思い出しため息が出た。
でも、そのため息以上にこのハートウォーミングな物語に出会えた喜びの方が遥かに大きくて、読み終えてからも装画から目を離せなかった。
夏の太陽に照らされてキラキラと輝く入道雲や、音色をのせて駆け抜けていく風は、その懐かしい夏の日々にも登場していた。
この本を学生時代に読んでいたら、また今とは違った人生があったんだろうと思う。
それくらい衝撃を受けた今年一番の小説です。
「真夏の入道雲を眺めながら読んでいただきたい…」
手紙に書かれたこの言葉は、「風に恋う」を読むにあたって、吹奏楽の世界への入り口の伏線になっていたのでは……(荒井 春美さん)
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