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青春×吹奏楽 傑作エンタメ『風に恋う』感想文の競演!

青春×吹奏楽 傑作エンタメ『風に恋う』感想文の競演!

『風に恋う』 (額賀澪 著)

 ずいぶん昔だが、「音楽は力、今君はそれを手にしている」というキャッチフレーズのCMが流されていた。確かカセットテープのCMで、音楽が持つ力を強くアピールするものだった。時に人に勇気を与えて後押しし、時に落ち込む心に寄り添い歩く。そんな音楽の力を十二分に表現したのがこの『風に恋う』だ。

 一度は吹奏楽から離れることを決意していた基を再び吹奏楽へと引き戻したもの、それは瑛太郎へのあこが れであり、突き詰めれば音楽が、吹奏楽が好きだという気持ちに他ならない。その純粋な気持ちがきれいに表現されているのが、この作品の最大の魅力ではないだろうか。

 もちろん、その道筋は簡単には進むことができない。しかし、立ちはだかる壁をすべて乗り越えていかなければ、目標には到達できない。特に上級生との関係はもっと軋轢があってもおかしくないだろうし、それを消し去るほどのリーダーシップを基が持っているようにも見えないけれど、この程度で収まっているのもきっと音楽の力なのだろう。

 また、主人公は明らかに基なのだが、見方を変えれば瑛太郎がもうひとりの主人公だろう。学生時代に力を入れていたことが大人に立って役立つ人なんて、ほんの一握りしかいない。まさ に輝きを失った大人の代表のように描かれる瑛太郎にとって、基や玲於奈たちの生き方、一途な志はまぶしいほどの光であり、彼がふたたび前に向かうための風なのだろう。

 序盤の「歌うお茶メガネ」「いやらしいトランペットの人」なんていう基と堂林の“異名”で、おもしろそうな小説として気持ちをギュッとつかまれた気もするけれど、おもしろいだけでなく最後まで勇気をくれる小説だった。瑛太郎だけでなく、私も風に背中を押されたようだった。(大城 和也さん)

単行本
風に恋う
額賀澪

定価:1,760円(税込)発売日:2018年07月13日

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