- 2018.09.30
- インタビュー・対談
<原 宏一インタビュー> 「元気が出る」中古屋さんの物語
「オール讀物」編集部
『廃墟ラブ 閉店屋五郎2』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「僕は料理をするので、業務用の中古厨房機器を扱う店によく行くんです。すると、一つ一つの商品に物語があるのが分かるんですよね。まだ使い込まれていない店名入りのラーメンどんぶりが積まれていると、『ああ、すぐに店がダメになったんだな』とか。そんな経験が、五郎の物語を書くにあたって活きました」
『ヤッさん』『握る男』などのヒット作で知られる原宏一さんの新作は、廃業した店から中古備品を買い取る「閉店屋」五郎を描いた作品の第二弾。この夏、西田敏行さん、竹下景子さんの出演で、NHKでラジオドラマ化が実現した人気シリーズだ。
情に厚いが惚れっぽい五郎の魅力は本作でも健在。五郎自身かつては新しい事業を興しては失敗し、借金を抱えながら夜遊びにうつつを抜かしていた男。自己破産して、妻の真由美には離婚届を叩きつけられた。そんな経験を持つ五郎だからこそ、ワケありで閉店するお客たちを見過ごせない。
しっかり者の娘・小百合を相棒に、表題作「廃墟ラブ」では、廃業したラブホテルのノートにあった心中をほのめかす書き込みから、謎の女性「アミ」を追いかける。「スリーチートデイズ」では、元レースクイーンの未亡人が運転するタクシーで「みちのく路」まで旅する羽目に……。全国を飛び回る五郎を追う、ロードムービーのような展開も読みどころだ。
「今回は、前作よりさらに物語を掘り下げて、情に厚い五郎を動かすさまざまな愛情の形を意識的に入れました。五郎が惚れ込む女たちへの愛だけではなく、離婚した妻や娘とのあいだの愛情、さらには全くの赤の他人に対する愛情……世の中が愛情でがっているんだと思ってもらいたい」
閉店という一見寂しく感じられる題材を扱いながら、なぜか“読むと元気が出る作品”として評価されるのは、原さん自身の経験が関係しているようだ。
「実は僕自身、閉店したことがあるんです。フリーのコピーライターから小説専業になったら売れなくて、小説家を“閉店”して再就職した。その後、幸運にも昔の本が売れ始めて、会社を辞めて再び小説家としてスタートがきれました。だから、閉店が『次のスタート』であることは身をもって知っている。人間って、何かを終えるときや失敗したときに、いちばん本性が出る。そこでどう振る舞うか、いかに前向きでいられるかが大事だと思います。五郎の物語を通じて、たとえ躓いても、もう一度チャンスはあることが伝わったらいいですね」
はらこういち 一九五四年長野県生まれ。早稲田大学卒業後、コピーライターを経て、九七年『かつどん協議会』でデビュー。『床下仙人』『ヤッさん』『握る男』など著書多数。
こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 10月号
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