愛した美しい継母は、とてつもない悪女だった。罪から逃れ出た青年は、新たな人生を求め、ガラス工芸の道に飛び込む━━。オール讀物新人賞を受賞した香月夕花(かつき・ゆか)さんの初の長編、『永遠の詩(とわのうた)』は、刺激的な展開で幕を開ける。世の中にあふれている「不実の愛」や「間違った愛」に、どう向き合えばいいのかを問い直す話題作が誕生した。
━━主人公の元基は、高校時代に継母・希帆と関係を持ってしまい、そのことに耐え切れず、実家を飛び出します。不倫が発覚すればバッシングを受ける時代に、衝撃的な設定でした。
「ここ最近、社会の規範や、倫理観が絶対的に正しい、という同調圧力が強くなっていますが、果たしてそうなのか。そのことをもう一度考える素材として、あえて、100人のうち99人がダメだ!と言うであろう、継母と青年の関係を描きました。私は、人間同志がかかわるときに善悪なんてなくて、人と人の間で、何かが爆ぜたり溶けあったり、化学反応がおきて、それにただ押し流されていくだけなのではないかと思っているんです」
━━“自分には何か大事なものが欠けている”と感じた元基は、ガラス工芸作家のもとで、ガラス製作に打ち込み、”欠けているもの“を探し続けます。
「長編を書くにあたって、当初は、“人は何があれば生きていけるんだろう”と考えたんです。友達がいて、家族がいて、仕事がある━━そういう恵まれた生活を送っていれば、“必要なもの”って見えてこないと思うんです。でも、元基のように、基本的な愛情や信頼感が満たされていない、という苦悩を抱えていた場合、何があったら生きていけるのか。一人の青年が、それを見つける過程を描きたいと思っていました。ところが、元基が最初に見つけたものは、偽物の愛情でした。人生の核を他人の中に求めてしまったために、足元をすくわれるんです。そこから逃げ出す過程で、元基は、ガラス製作に出会い、“何かを作り出す行為”が、自分を支えてくれるのではないかと気付きはじめるのです」
━━“ガラスの器を作る過程にこそ真実がある”と感じるほどの作品に香月さんは、出会われたのでしょうか?
「あるギャラリーで、左藤玲朗さんという方の作品を見たんです。シンプルな器なのですが、まるで生き物みたいにぎらぎらと光っていました。水で満たされていたり、渇いていたり、様々な状況がそこに刻まれているようでした。繰り返し裏切りにあって、それでも何かを探し続ける元基にとって、ガラス作りに出会えたことはすごく大きなことでした。熔解炉というずっと燃えている炉があって、そこに、砕いた古いガラスを入れると、ガラス種となります。これを竿で巻き取り、命を吹き込むように息を入れて━━この作業を何度も繰り返して、新しいガラスを作っていく。いわば、死と再生のモチーフとしてぴったりだと思ったんです」
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