書評

スーさんの魔法の筆から繰り出される言葉の数々に、してやられる快感

文: 中野信子 (脳科学者)

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(ジェーン・スー 著)

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(ジェーン・スー 著)

 そんな私たち理系女子はメディアでちやほやされる「リケジョ」とかとはワケが違うんだよ!! と、表立って言葉にすることこそなかったけれど納得できない何かを抱えつつお菓子学校に通うこともなくヴィヴィアン・ウエストウッドのリングを嵌めることもなくグッチのドレスが妙に似合ってしまうなんていうことも起こり得るわけがなく、同じくごくごく地味な大学院生の男子たちに囲まれて修道女のような日々を過ごし、それなりに何かは起こるものの、特殊な生態系が形成されている……それが院生生活でした。

 一方で東大にいる、理系の主要成分を構成する男子たちは、東京大学は本郷にあるというのになぜか「アキバ系」「つくば系(もはや東京ですらない)」と呼ばれたりしていました。今でこそ秋葉原は萌えの地として知られているようですが、当時のアキバは男性比率が9割を超える異様な雰囲気をなみなみとたたえた街区であり、実験用に使うスイッチを自作したりPCのパーツを換装したりするために研究室の学生が使う共用の自転車で走り回るような場所だったのです。ようやくメイドカフェがぽつりぽつりとできてきたかなあというくらいの時代。

 中野はそんな大学院を修了するやフランスの研究室に行ってしまい、帰ってきてからも企業に就職することなく現在に至っているので、社会に出る(この表現もいつも変だなあと思いながらも使っていますが)どころか就職活動というものすらしたことがありません。ますます、巷の女子との差は開いていくように感じられます。あきらめムード一色です。

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。ジェーン・スー

定価:本体600円+税発売日:2018年11月09日


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