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これを書いているのは自分ではないか? 共感を呼ぶジェーン・スーの品定め

これを書いているのは自分ではないか? 共感を呼ぶジェーン・スーの品定め

文:俵 万智

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』 (ジェーン・スー 著)


ジャンル : #随筆・エッセイ

忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。 今日は俵万智さん。

『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』 (ジェーン・スー 著)

 ネットで「七分丈の憂鬱」を試し読みしたとき、これを書いているのは自分ではないかと思うくらい共感した。七分丈レギンス(かつてはスパッツ)にチュニック丈というスタイルが、ちまたの女性から、おそろしい勢いで潮がひくように見られなくなってしまったのだ。2015年初夏に都心で観察されたというその現象は、今や私の住む地方都市でも、同様に起こっている。

 ユニクロ東京ミッドタウン店でのやりとりに始まり、ネットでその現象を確認し、立腹し、くよくよし、平気を装い、がっかりもする。その過程の一つ一つにうなずき、ユーモアたっぷりの表現に笑いながら救われた。

 その昔の「パシュミナ」や「紺ブレ」の流行が終わったときよりも、衝撃は大きい。なぜなら「お腹の出ている中年にとって、チュニックやワンピースにレギンスというスタイルは鉄板です。あれがギリOKな限り(中略)私たちは戦場に残っていられるはずでした」と著者の言うとおり。

 戦場という言葉が出たが、本書は、「43歳、都会で働く大人の女」が、そこそこイケているように見えるために装着すべき、さまざまな甲冑を試したり試さなかったり、試しかけてクローゼットにしまいこんだりという戦の記録。「赤い口紅」「オーガニック」「ヨガ」「ディズニーランド」「ひとり旅」「京都」などなど甲冑はさまざまだ。

 著者自身は、ほぼ常にトホホな低め安定の位置に身を置きながら、それぞれの甲冑がどのような価値観をまとうものかを看破する目が、まことに鋭い。

 甲冑へのあこがれを隠さず、けれどその重さを我慢することはせず、不必要だと思うものも、いきなり断捨離して喪失感を味わうことは、避ける。ある意味、絶妙なバランスをとりながらの自意識の迷いと格闘が、繰り返される。

 甲冑を品定めする視線は、低め安定の位置だけれど(これは多くの読者の共感を呼ぶ大事な装置でもあるだろう)、軽妙なコラムの筆致は、高め安定の「今」を感じさせてくれるもので、読む楽しみを与えてくれる。

 

俵 万智(たわら・まち)

俵 万智

1962年、大阪府門真市生まれ。早稲田大学文学部卒。1986年、『八月の朝』で角川短歌賞受賞。1988年、『サラダ記念日』で現代歌人協会賞受賞。2004年、評論『愛する源氏物語』で紫式部文学賞を受賞。2006年、『プーさんの鼻』で若山牧水賞受賞。その他の歌集に『オレがマリオ』、エッセイ集に『旅の人、島の人』など。

文春文庫
女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。
ジェーン・スー

定価:704円(税込)発売日:2018年11月09日

電子書籍
女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。
ジェーン・スー

発売日:2018年11月09日

単行本
女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。
ジェーン・スー

定価:1,430円(税込)発売日:2016年05月28日

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