インタビューほか

座談会「小沢昭一さんの正体」#1

加藤 武(俳優),矢野誠一(劇評家),三田 完

『あしたのこころだ』(三田 完 著)

『あしたのこころだ』(三田 完 著)

 加藤 本番では当意即妙、アドリブでやっているように見えるんだけど、実を云うとあんな、稽古好きな奴はいない。それで幕が開くと汗びっしょりの熱演型なんだ。悪気はないが、前に出てしまうからこっちはやりにくいったらない(笑)。

 矢野 よく芝居は稽古のほうが好きで楽しいとおっしゃっていました。本番になるとそんな余裕がなくなって、シャカリキになっちゃうって。

 三田 ラジオでも、スタジオに入ると収録の時間はかかりませんでした。毎週月曜日に収録があるんですが、一回だけ通しでリハーサルをして、もう本番という形。取り直しということはほとんどありません。それでふと台本を見ると、何かチョコチョコとよく分からない印が書いてあって、入念に下読みした形跡があるんです。実際、コハダは仕込に時間がかかるけど、握るときはそう時間がかかんない、みたいな話をよくしていましたね。

 加藤 ラジオは一人でやるから、合っていたんでしょうね。だから最後に一人芝居に到達したのは正解。実際に『唐来参和』『榎物語』といった一人芝居の金字塔を打ち立てたんですから。

 矢野 実は小沢さんは、一度お客さんを一人も入れずに一人芝居をやったことがあるんですよ。チラシや切符まで作って。たしか井上ひさし作品で。

 加藤 『不忠臣蔵』じゃないですか。

 矢野 そうかもしれません。ポスターにはチケット一枚いくらと書いているくらい、凝ってるんですよ。そういった宣伝物にお金をかけて、もちろん、スタッフにもきちんとギャラを払っている。わざわざそんなことをやってみせたのが面白いですよね。一世一代の贅沢というつもりだったのかもしれません。

2へ続く

あしたのこころだ三田 完

定価:本体700円+税発売日:2018年12月04日


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