インタビューほか

座談会「小沢昭一さんの正体」#2

加藤 武(俳優),矢野誠一(劇評家),三田 完

『あしたのこころだ』(三田 完 著)

【1よりつづく】

『あしたのこころだ』(三田 完 著)

小沢さんと家族

 矢野 お金にまつわる笑い話で思い出したのが、本に書いたこともあるんですが、バブルの最盛期にある化粧品会社から僕と小沢さんで、百人くらいの聴衆の前で喋ってくれと依頼されたことがありました。ギャラの額を聞いたら、これは小沢さんは受けないだろうと思っていたら、「こういう座談会や講演会は、現金で出してくれるから、額のことは言わないで、やろうやろう」って言うんです。そうしたら当日、化粧品会社の担当者が控室に来て、銀行口座を教えてくださいと言うんですね。そうしたら小沢さんは「そんなもん知りませんよ」と言って。

 三田 名演技ですねえ(笑)。

 矢野 対談が始まったら、開口一番「最近、原稿料なんかはみんな振込でしょ。こういう仕事は別なんですよ」と。僕が他の話題に持っていこうとしても「銀行振込がいかに日本の男を悪くしたか」って。要するにこれだけ言っているんだから、終わるまでに、かならず現金を用意してくると思っていたんですね。一時間のあいだその話だけ。でも終わって担当者が「口座のほうは後ほどお電話で」って言ったら、小沢さんは何も言わずにパーッと帰っちゃった。

 三田 矢野さんがそのことについて書かれた文章をちょうど昨日読みました。僕がNHKのローカル局で働いていた二十代の時、初めて小沢さんと仕事をしたときは事前に交通費とギャラを現金でお渡しすることができたんですよ。その時、小沢さんが丁寧に領収証にサインしてくれました。銀行振込じゃなくてよかった(笑)。化粧品会社の人の前で不機嫌な態度をとったのは、たぶん小沢さん一流のいたずらだったと思うんです。でも、放浪芸の研究をしてきた小沢さんには、振込とか源泉徴収なんてものと関係のない投げ銭をもらうのが本来の芸人の生き方という思いがどこかにあったんでしょうね。だからそのとき、現金をその場で頂戴する、つまり業界用語でいうトッパライに並々ならぬ情熱を燃やしたんじゃないでしょうか。

あしたのこころだ三田 完

定価:本体700円+税発売日:2018年12月04日


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