書評

日本のハードボイルド史上、こんなにカッコいい女性主人公はいない!

文: 内藤麻里子 (毎日新聞社編集委員)

『魔女の封印』(大沢在昌 著)

『魔女の封印』(大沢在昌 著)

『魔女の笑窪』は地獄島に搾取された女の逆襲だ。背景を彩るのは日本の裏社会と韓国勢力の進出。今から思うと、水原を水原たらしめた地獄島との対決を早くも一巻で終わらせてしまってもったいない気がするが、大沢さんはそんなけちな作家ではない。

 第二巻『魔女の盟約』の舞台は釜山、上海、日本と俄然広くなった。上海の元女刑事の復讐を軸に、民族マフィアの萌芽に巻き込まれる。

 そして『魔女の封印』は「頂点捕食者」との戦いだ。

 問題は、その頂点捕食者である。一般的には生態系の中で最上位に位置する生きもののこと。ノルウェーの生物学者ヘンリック・オルセンが提唱した理論によると、人類が七十億を超えるほどいる現状で地球の頂点捕食者でいるのはおかしい。〈人類は滅亡するか、自然の摂理が新たな頂点捕食者を作りだす〉だろうというのだ。

 これを読んだときはなるほどなとうなり、背筋が寒くなった。こういう警告は実際にあるんじゃないかと早速ネットで検索してみたら、どうやらこれは大沢さんの創作らしい。しかし、地球環境を破壊している我々の罪を思うと、〈これだけ数の増えた人間が頂点捕食者であるのは自然に反している〉と言われれば、どこか納得するものがある。現実から予想できるほんの少し先の未来のあるかもしれない形を提示して、説得力がある。しかも、今まで頂点捕食者がいても世界の片隅で孤独に生きるしかなかったものが、ネット社会であるからこそ仲間を見つけるチャンスを得たと展開されると、いちいち膝を打ってしまう。

魔女の封印 上大沢在昌

定価:本体670円+税発売日:2018年12月04日

魔女の封印 下大沢在昌

定価:本体680円+税発売日:2018年12月04日

魔女の盟約大沢在昌

定価:本体900円+税発売日:2011年01月07日

魔女の笑窪大沢在昌

定価:本体700円+税発売日:2009年05月08日


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