
- 2019.03.26
- 書評
ラテンアメリカとキューバ革命の壮大な叙事詩に仕掛けられた華麗なトリック
文:八木啓代 (音楽家、作家)
『ゲバラ漂流 ポーラースター 2』(海堂 尊 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
とはいえ、これは、あくまでも小説である。
ゲバラ青年が、中南米各地を旅した末に、メキシコに辿り着き、そこで、フィデルとラウルのカストロ兄弟と運命的に出会ってキューバ革命に参加したのは史実なのだが、ことは、そう単純な英雄譚ではない。
なぜ、あの革命が起こったのか。なぜ、キューバ革命がキューバ革命たりえたか。なぜ、九〇年代にソ連東欧圏が崩壊しても、キューバは生き残り、それどころか、中南米ではその後も左派政権が生まれてきたのか。
そういったことを理解するためには、その土壌を深く掘り下げなければ、けっして見えてこないものがある。
外科医が患者の病態を理解するためにさまざまな検査をおこない、精緻に分析・検討した上で、はじめてメスを手に取るように、キューバ革命を生きた革命家の姿を描くためには、革命の足下にある歴史的・時代的背景を知悉しておかなければならない。
それは、医師でもある海堂氏には当然のことだったのかもしれないが、一方で、この時代は、ラテンアメリカ史の専門家であってさえもなかなか把握しきれない、もつれた組紐のような様相を持つ。
海堂氏自身、このシリーズを執筆するにあたり、一千冊を超える書籍を集め、ラテンアメリカ各地にも何度も取材旅行を敢行したというだけあって、本書の情報量は膨大だ。
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