書評

人間関係にある抑圧とエロスというタブーを怖れず描いた天才漫画家

文: 桐野夏生 (作家)

『月読 自選作品集』(山岸凉子 著)

「月読(つくよみ)」

 男神であるイザナギが産んだ三人の神は、三貴子と呼ばれる。イザナギが左の目を洗って産んだ天照大御神(アマテラスオオミカミ)、右の目を洗って産んだ月読命(ツクヨミノミコト)、そして鼻を洗って産んだ須佐之男命(スサノオノミコト)である。

 山岸凉子の手にかかれば、三貴子でさえも、「抑圧」と「エロス」の煩悩地獄に陥れられる。姉である天照大御神に焦がれ、その歓心を買いたいと、月読命は懊悩するのだが、天照大御神は、弟の須佐之男命の方を気に入っている。月読は、粗雑で荒々しい須佐之男命が嫌いだ。しかし、天照大御神は、その男らしさを好み、死者の夜を守る仕事をする月読の暗さを退けようとするのだった。

 太陽の光でしか輝けない月という存在は、抑圧の中で生きるしかない姿を運命づけられているようでもある。

月読山岸凉子

定価:本体780円+税発売日:2019年04月10日


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