「罪の自白」という脅迫の意外性!
──脅迫の材料が身代金ではなく、「罪の自白」ということに驚きました。このアイデアはどのように生まれたのですか?
「ヨコハマを舞台にしたミステリー、『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』を書いているときに、政治家の罪を暴こうとする登場人物を書きました。その人は正々堂々と政治家に戦いを挑むんですが、執筆しながらふと思ったんです。『もっと汚い手段で、政治家の罪を暴けないだろうか』と。『悪事を働く政治家であれば、徹底的に懲らしめていいのではないか』と。
海外に目を向ければ、メキシコなどの麻薬組織は、警察や裁判所の役人を脅したり、または彼らの身内を誘拐し、摘発をまぬがれようとする凶悪事件が多発しています。
日本は治安大国であり、誘拐事件は少ないですが、もし政治家の身内を誘拐したらどうなるだろうか! というアイデアが浮かびました」
──過去には、週刊文春ミステリーベスト10で2位となった『誘拐の果実』(集英社文庫)など、このジャンルの傑作を書かれています。改めて誘拐モノに挑戦するには、相当の覚悟も必要だったのではないですか?
「おっしゃる通りです。これまで以上に面白いものを書ける!という自信がないと、『誘拐モノ』には挑めません。
若いころの話ですが、『誘拐の果実』のベースとなるアイデアを思いついたときと、今回の構想が閃いたときの手ごたえがすごく似ているんです。当時、ボロアパートの狭いお風呂で湯船につかっているときに、アイデアが浮かんで、いきなりお風呂を出て、狭い六畳間をぐるぐると歩き回って友人に電話をかけたんです! 『こんな面白いアイデアがあるんだぞ』と。今回も同じような感覚でした。『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』の執筆中だったので、裸で歩き回ったりはしませんでしたが(笑)。
新しく、誘拐モノを書くに当たって、金銭の要求では何の目新しさもありません。
過去には、『ウィンブルドン』という海外の名作があり、「要求に応じなければ、試合の勝者を射殺する」という脅迫があった。
誘拐モノの名手・岡嶋二人さんの『タイトルマッチ』は、犯人の要求が、「相手をノックアウトで倒せ。さもなくば子供の命はない」というものでした。
そんな国内外の名作を超える脅迫――政治家に対する過酷な要求は何だろうか、と考えたときに、『これまで犯してきた罪を自白しろ』ということにたどり着いたんです。
あまりにも素晴らしいアイデア(笑)だったので、きっと誰かがすでに書いているにちがいないと思って、シンポ教授こと、ミステリー評論家の新保博久さんに相談しました。そうしたら、『過去にも例がない』という答えだったので、これはいけるぞ! と」
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