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【対談】さらけのプロみうらじゅんが明かす『週刊文春』編集長とのエロエロな話

【対談】さらけのプロみうらじゅんが明かす『週刊文春』編集長とのエロエロな話

みうらじゅん ,新谷 学(『週刊文春』編集長)

『ラブノーマル白書』(みうらじゅん 著)


ジャンル : #随筆・エッセイ

『ラブノーマル白書』(みうらじゅん 著)

『週刊文春』編集長・新谷学が「編集長の正式な内示より早い」ほどの意気込みで依頼してスタートした連載「人生エロエロ」。そのいきさつはいかなるものだったのか? 

著者とスクープ“文春砲”を放つ編集長との抱腹絶倒の対談(※肩書は対談当時。2018年7月より『週刊文春』編集局長)。


 みうら やっぱ「エロ」は到底「ゲス」には敵(かな)わないと思いますね。だって、ゲスにはエロも含まれてるでしょ(笑)。僕の連載「人生エロエロ」の場合、“笑い”に落とし込まないと気が済まないという弱さもある。モテた自慢話なんてちっとも面白くないんだから。

 新谷 難しいところですよね。エロって笑いに持っていくと、興奮しなくなりますもんね。

 みうら ギャグポルノはね(笑)。

 新谷 でも、マツコ・デラックスさんがよく言ってますけど、今の時代って自虐ができないとダメなんだと思います。そういう意味でみうらさんのこのさらけ出し方は、本当にすばらしいですよね。

 みうら そこは「一人文春」気取りですから、“さらけ”はプロ並みです(笑)。取材も来てないのに、一人で暴露してね。しかも、話をマイナスに盛ってますから。

 新谷 友達の話も自分の話にして書いているんですもんね。

 みうら あえてエロの汚名を着てますから(笑)。2012年に新谷さんが編集長になって、「連載お願いします、エロで」って言われたとき、笑ったけど実はすごく不安でね。だって、そんなに面白いエロネタが毎週あるわけないじゃないですか。

 新谷 だけど「人生エロエロ」の連載は、テンションが全く落ちてないですよ。

 みうら 誉めてます? それ(笑)。ありがとうございます。いや、エロ話だからこそ、入稿前に四回以上書き直して、ゲラでもさらに直して、単行本にするときも、かなり書き直していますから。今日も徹夜して原稿書いてきましたけど、こんなことに徹夜するなんて、親にオナニーが見つかったときと同じくらい後ろめたいわけで。まあ、その後ろメタファーがあるから、頑張れるんですけどね。

 新谷 『週刊文春』の編集長になった瞬間に、やりたいと思ったことがいくつかあるんですけど、その中のかなり優先順位の高いところに「みうらさんに連載を頼もう」ということがあったんです。だから、正式な内示よりも早いくらいの勢いでみうらさんに「連載お願いします、エロで」と連絡して。

 みうら エロ本じゃない限り、そんな依頼、フツーないでしょ(笑)。

 新谷 要するに、みうらさんの『瘋癲(ふうてん)老人日記』が読みたかったんです。これから歳を取っていくにあたって、自分のエロとどう向き合っていくのかを、人生を賭けて書いてほしいと。あの谷崎潤一郎が最晩年に書いたのが『瘋癲老人日記』だったわけで。谷崎は己れの性的嗜好と向き合って、「足フェチです」と、「死んだら息子の嫁の仏足石(ぶつそくせき)の下に骨を埋めてほしい」と、小説という形は取っているものの、赤裸々に書いたんですよね。

 みうら 文学の形を取った、変態の告白ですからね(笑)。

 新谷 しかもあの小説、結構興奮するんですよね。

 みうら 決してエロ小説じゃないのにね。映画では山村聰が演じてましたね。

 新谷 欲情する対象の、息子の嫁役が若尾文子で。

 みうら そうそう。でも『瘋癲老人日記』の主人公も、思っているよりそんなに年寄りじゃなかったんじゃないですかね?

 新谷 小説の設定は77歳だったので、結構歳取ってますけど、山村聰は若そうですよね。

 みうら 今の僕とあんまり変わらない歳じゃないかな~(注:山村聰が52歳のときの作品)。

 新谷 そんな原稿を、まさに毎号毎号刻みつけるように書いていただいて。しかも実は「人生エロエロ」ってハードボイルドなんですよね。何度も推敲(すいこう)を重ねていることもあるかと思うんですけど、文章に無駄がない。濃縮されたものが詰まっていて、読み手側に「一行読み飛ばすと伏線を見逃すぞ!」という緊張感を強いてくるんですよ。

 みうら いや、それは文才がないだけで(笑)。

 新谷 こういうエッセイは滅多にないので「心血注いで書いてくれているな」ということが、ビシビシ伝わってきます。

 みうら ビンビンならもっといいんだけどね(笑)。

 新谷 エロの中に笑いあり、ペーソスあり、涙あり。

 みうら この連載の中で、「アパート」と書いている話と「マンション」と書いてある話があるんですが、「アパート」って書いてあるときは“まだ独身の頃”という前提の話なんですが、「マンション」になると既に“結婚後”の話だから、世の中的にはゲス不倫の話なんですよね(笑)。

 新谷 そこは気がつかなかったな~(笑)。でも、連載頼んだ私が言うと怒られそうですけど、さすがに電車の中でみうらさんのページを読んでいて、隣に女性が来ると、ちょっと恥ずかしい。

 みうら 誌面では武田双雲さんの筆文字がバキーンと来て目立ちますからね(笑)。

 新谷 そう、あのタイトルの字が強いんですよ。ちらっと見ただけで、何を読んでいるかすぐわかっちゃう。武田双雲さん、さすがですよね。

 みうら だからってわけじゃないけど単行本は、和田誠さんにお願いして、手に取りやすいかわいい装丁にしていただいたんですけどね。

 新谷 「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」という最初のキメ台詞はどうやって考えたんですか?

 みうら かつて糸井重里さんが『週刊文春』でやられていた「萬流コピー塾」ってあったじゃないですか。冒頭に「私が家元の糸井重里である」ってキメ台詞を毎回ひねって書いてあってね。それが面白くて、ずっと頭に残っていたんだと思います。

 新谷 最初にみうらさんにお会いしたのは、『Number』の高校野球特集でしたよね。

 みうら 野球オンチなのに高校球児のイラスト頼まれてね(笑)。

 新谷 まだ会社に入ったばっかりでしたよ。1989年の4月に新入社員で『Number』編集部に配属されて、みうらさんに会ったのはその1ヶ月後くらいでした。

 みうら そもそも、なんで俺に頼んだんですか?

 新谷 頼んだのは私じゃないんですよ。『Number』編集部の先輩が、バリマラソンの取材に行ったときに、別の雑誌の取材でバリに来ていたみうらさんと知り合って、イラストをお願いしたんです。

 みうら あ、そのバリマラソンの話、前回の単行本(『されど人生エロエロ』)に書きました。僕は『ドリブ』という雑誌の取材でマラソンオンチなのにバリマラソンに参加させられて(笑)。

 新谷 それでその先輩にイラストを受け取ってくるように頼まれて、みうらさんの事務所に行ったんです。そのときみうらさんに「本当は野球のことはよくわからなくて、『巨人の星』くらいしか興味がない」と言われて、「僕も『巨人の星』が好きなんですよ!」って答えたら、そこから延々『巨人の星』の話で2時間以上盛り上がって(笑)。

 みうら それが『Number』でやった「巨人の星 巡礼の旅」の企画につながったんだよね。あのときのカメラマンは、バリマラソンの取材でも会いましたけど、ものすごい酒乱でしたよね。ホテルの部屋で一緒に飲んでいたら、うお~って暴れ出して、ベッドのマットレスをモノリスみたいに立てたんだもん(笑)。

 新谷 あのあとあのカメラマンは文春を辞めて、他社のカメラマンになったんですよ。あるとき電車でたまたまあの方が隣に座って、しかも酔っていたので、目を合わせないようにしてたんですけど「おっ、新谷さんじゃないですか~」ってバレまして。「今日、俺、誕生日なんだよね~」って言われて、慌てて次の駅で降りました。サシで飲むのは怖いので(笑)。

 みうら 「巨人の星 巡礼の旅」の取材では、甲子園球場とか宮崎にも行ったよね。

 新谷 バブルでしたから。まだCGがない時代だから、カメラのレンズにフィルターをかけて、夕焼けっぽい写真を撮ったりしましたね。

 みうら 多摩川の土手で巨人のユニフォームを背中に羽織って、何故かギターを弾いてる僕の姿も写ってて(笑)。

 新谷 ちょうどみうらさんがバンドをやっている頃で、宮崎で一緒に『イカ天(平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国)』に出て演奏しているみうらさんを見ましたよ。

 みうら そういや見ましたねぇ。

 新谷 オーロラ三人娘(注:星飛雄馬の最初の恋人、橘ルミが所属するアイドルグループ)がコンサートをやった、宮崎の市民会館の前でも写真撮りましたね。

 みうら 『巨人の星』を全巻買って、お互いに気になるシーンのコマに付箋(ふせん)貼って、それを写真で再現するなんてね。

 新谷 琴線(きんせん)に触れたコマの付箋が、合致してると嬉しかったです。宮崎の日南海岸の土産物屋で、漫画に描かれている貝殻と似た形の貝を必死に探して買って、浜辺に置いて撮影したりしましたね。世はバブルだったから撮影用の小道具もガンガン買ってました。

 みうら すごい数、領収書切ってたよね。

 新谷 やりたい放題でしたね。

 みうら その次が「タイガーマスク 巡礼の旅」でしたね。僕の美大の友達、トットリくんに紙粘土で「虎の穴」の像を作ってもらってね、静岡まで行って、富士山をバックに撮影しましたよね。それを『Number』で見た野茂英雄投手から後に「欲しい」って連絡がきたんですよね。

 新谷 「どこで売ってるんですか?」って聞かれたから「売り物じゃないんですけど、そういうことなら差し上げましょう」となって、近鉄が料亭を取ってくれて会うことになったんです。でも、待てど暮らせどみうらさんが来なくて。場をつなぐのに困りましたよ。

 みうら あの時は本当にごめん(笑)。途中で「虎の穴」像の羽根が折れちゃって、コンビニでアロンアルフア買って直してたから遅れちゃって。

 新谷 でも野茂選手、すごく喜んでましたよ。ちょうどドジャースに行くときだったんで「ロスの家の玄関に飾ります」って言ってたじゃないですか。

 みうら そのお礼に「虎の穴 野茂英雄」と書いたサインボールをもらいましたよ(笑)。

 新谷 「タイガーマスク 巡礼の旅」は、児童養護施設の「ちびっこハウス」を再現するために、何軒も保育園に「撮影させてください」と交渉に行ったことをよく覚えています。

 みうら タイガーマスクが「ちびっこハウス」にプレゼントを持っていくコマの再現写真を撮るとき、新谷さんがプレゼントの箱の形まで全部完璧に合わせてきて、ビックリしましたよ。

 新谷 銀座の「松屋」に頼んで、漫画と同じような包装をしてもらいましたから。そういうところがちょっとでも違うと、気になってダメなんですよ。

 みうら カメラマンに撮る角度も指定してましたよね。分ります、そのこだわり(笑)。その後やったのが「あしたのジョー 巡礼の旅」(『Number』267/1991年5月20日号)。後楽園のリングまで借りて撮影して、もはや映画を撮ってるみたいだったね。

 新谷 山谷(さんや)の撮影は怖かったですね。「カメラ壊すぞ!」って怒られて。

 みうら あれは本当ビビりました(笑)。

 新谷 僕もまだ『週刊文春』編集部に行く前だったので、社会派の取材なんてしたことなかったですから。

 みうら しかも、カメラマンに「遠くから歩いてくるところを狙うんで」と言われて、俺一人で矢吹丈のコスプレして山谷を歩かされましたからねぇ。

 新谷 ズダ袋担いで、ハンチングかぶって(笑)。

 みうら あの日、雨だったんですよね。それで、一杯飲み屋にいた方たちにどっと囲まれてね。

 新谷 「山谷で写真撮ってんの、誰だ~!?」って怒鳴られて、その声を聞いた人たちが集まってこられて。さっきまで酔っ払って寝っ転がっていた人がムクムク起きてきて、マイケル・ジャクソンの「スリラー」みたいになって。

 みうら 「ふざけてるんじゃねえよ!」って怒られたけど、実際ふざけてましたから(笑)。

 新谷 「山谷でふざけてました、すみません」って、あっさり全面的にあやまって(笑)。「フィルム差し上げますので、カメラ壊すのは勘弁してください」と。

 みうら カメラマンと三人でショボショボになって編集部に帰ってね。

 新谷 あ、でもピッグロデオの撮影は盛り上がりましたよ! 矢吹丈がブタに乗って少年院から脱走するシーンを再現しようってことになって。あのときたまたま『Number』編集部に、「ピッグロデオ大会を開催しますので、取材をしませんか」という案内状がきたんですよ。普通だったらそんなハガキ無視しちゃうんだけど、目ざとく見つけて、すぐに「取材させてください」と連絡して(笑)。みうらさんが着る囚人服も、東京衣裳でわざわざ借りて。

 みうら でも、ブタなんて乗れたもんじゃないよ。軽くまたがったくらいで、「今! 早く、早く、撮って!」って、必死(笑)。このときはロケバスに乗って遠くまで行きました。そのバスの中で、なぜか新谷さんとSM女優の谷ナオミさんの話で盛り上がったことをよく覚えてますよ。

 新谷 しました、しました(笑)!

 みうら 新谷さんには、爽やかな「若大将」みたいなイメージがあったから、谷ナオミさんの話で盛り上がるとは意外でした。

 新谷 偶然の積み重なりですね、人生は。『あしたのジョー』で、みうらさんとコマの付箋がばっちり合ったのが、マンモス西の……。

 みうら 「鼻からうどん」でしょ(笑)。あれ(注:ボクシングの減量中なのにうどんを食べているところをジョーに見つかり、殴られて鼻からうどんを出す名シーン)は外せないよね!

 新谷 最後には「ブルース・リー 巡礼の旅」をやろうとなって、香港まで行きましたから。みうらさんに黄色のトラックスーツを着てもらって撮影しましたけど、あれもタランティーノの『キル・ビル』より早かったですよね。このときもトットリさんに「鉄の爪」(注:『燃えよドラゴン』に出てくる敵の武器)を作ってもらって、香港に持って行って。

 みうら 飛行場の検査でひっかかったんだよね。

 新谷 「なんだ、これは?」って英語で聞かれて、説明の仕様がなくて困りました(笑)。

 みうら 鉄でもなく、紙粘土だから(笑)。俺の裸の背中に、鉄の爪でひっかかれた傷をつけて撮影してね。何してんだろうね(笑)。

 新谷 本当に金かけてましたね。香港まで行ったんだもんなあ。ああいう企画、『Number』はもちろん、どの雑誌もやらなくなりましたね。テレビも同じで、“金をかけずにいかに数字を取るか”ばっかり考えているからつまらないんですよね。

 みうら そりゃ「動物」とか「うんちく」ものばかりになるよね。

 新谷 ひな壇に芸人さん並べて、あーだこーだって、出来事を適当に喋って終わり、みたいな。何かを自分で起こすってことがないですよね。

 みうら 起こすのは、時間外労働じゃなきゃね(笑)。やっぱ『Number』の「巡礼の旅」シリーズは、梶原一騎イズムが入っているのが面白かったんだよね。

 新谷 梶原一騎の原作ものがいいんですよね。あのドロッとしてギラッとした感じはなかなか出せないですよ。『キャプテン』とか、やっぱり違いますもんね。

 みうら 『タッチ』も世代的に違うしね。そもそも俺が『タッチ』や『キャプテン』のパロディしても気持ち悪いだけだし(笑)。

 新谷 梶原一騎に漂う、影の部分がいいんですよね。梶原一騎と白冰冰(パイ・ピンピン)の娘が誘拐されて殺された事件が台湾であったじゃないですか。あのとき『週刊文春』編集部にいたので、台湾まで取材に行きましたよ。弟の真樹日佐夫さんにも会いました。

 みうら パイ・ピンピンって名前だけでグッとくるもんね(笑)。まあ、「巡礼の旅」をやってた頃は時代もよかったね。

 新谷 無駄なことに金や労力をかけてもよかった時代でしたから。今は効率を求められちゃっているから面白くないですよね。無駄な金を使う奴は悪い奴になっちゃってますから。

 みうら まだまだいっぱいあるのにね、面白いことは。

 新谷 「巡礼の旅」シリーズは、打ち合わせしている段階から面白かったですもんね。

 みうら ワックワクしたもんね。

 新谷 最近は不倫のスキャンダルが多いですけど、男が有名になると、お近づきになりたいという女の人が、向こうから来ることがあるじゃないですか。

 みうら でも最後には揉めに揉めて週刊誌に書かれたりするわけでしょ。それはやっぱ、「別れ方」が悪いんですかね。

 新谷 ちょっとした金をケチったりするとかね。

 みうら エロのケチはダメですよね(笑)。

 新谷 フェチはいいけど、ケチはダメですね(笑)。別れ方は大事ですね。「英雄色を好む」と言いますけど、仕事がうまくいって、人生の絶頂になると性欲も高まって、女の人が欲しくなるんですかね。みうらさんの経験で言うとどうでした?

 みうら 僕の場合は、やっぱバンドやってるときでしたね。バンドは目の前でキャーキャー言われますから直モテた気になるでしょ。でも、文章はそうはならない。ライブには打ち上げがありますけど、原稿は一本書いたからっていちいち一人で打ち上げしても仕方ないしね(笑)。

 新谷 たしかに。

 みうら 僕はバンドでモテるノウハウを知ったもんで、後にライターやイラストレーター仲間と公園にギャラリーを集めて目の前で原稿を書くイベントをやったりもしたんです。首から画板を下げて、目の前で原稿を書くだけなんだけど、如何(いかん)せんバンドと違い音が出ないでしょ、「キャー」って言われることはなかったですけどね(笑)。

 新谷 そういえば、昔、みうらさんに誘われて、“『巨人の星』評論家”って肩書きで、名古屋のテレビ番組(注:みうらじゅんがレギュラー出演していた、中京テレビ『ラジオDEごめん』)に出たことがありましたけど、そのときもみうらさんに「打ち上げでいいことがあるかもしれないよ」って言われて行ったんですよ。まだ独身だったから「何があるんだろうな~」と思って(笑)。

 みうら アハハ。何もなかったでしょ(笑)。

 新谷 なかったです。手羽先食ったのは覚えてます。

 みうら あの頃はよく東京で飲んでた友達を「モテるかもしれないよ」って誘って、そのまま名古屋に連れて行ってゲスト出演してもらってたんですよ。

 新谷 今まで経験した人数は、何人くらいなんですか?

 みうら いきなりそこ、聞きますか(笑)。「人生エロエロ」、その前にも『やりにげ』なんて本も書いているんで、すごくやってるように思われがちですけど、同じ女の人を平たく引き伸ばして書いていることも多くて。ま、企業秘密ですが(笑)。でも、やっぱつき合いが長いほうが面白いことが起きるでしょ。

 新谷 相手の女性は、顔とかタイプで選んだりしないんですか?

 みうら 選んでいないって言ったほうがいいですか(笑)?

 新谷 でも不思議なもんで、「人生エロエロ」は、美人をイメージしながら読んじゃいますね。

 みうら 意外と根は上品なもんで、あまり人の顔のディテールは書けないです。そこが僕の欠点でね。

 新谷 優しさがあるんですよね。いいことじゃないですか。

 みうら いや、ロクな人間じゃないですから(笑)。

 新谷 女性への愛があるし、エロに対するリスペクトがありますから。

 みうら いや~(笑)。

 新谷 「ビンカーン大統領」とか「フーテンのソロ」(ともに文春文庫『されど人生エロエロ』に収録)とか、ああいった軽妙な原稿も好きですね。

 みうら 『週刊文春』って媒体は、実はアガるんです。だから、毎回原稿は、“エロ本に書いているんだ”と自分を洗脳してから書き始めるんです。だって、政治の話なんかも載ってる雑誌の中で、きっと「人生エロエロ」はかなり浮いているでしょうから(笑)。

 新谷 でも雑誌は、ごちゃまぜだから面白いんですよ。「雑」なんで。最近雑誌もテレビもつまらなくなっているのは「『週刊文春』ならこんな感じだよね」とか、みんなが決めてかかるからじゃないですか。書き手も編集サイドも含めて、そこに落とし込むと安心する。

 みうら なるほどね。

 新谷 「『週刊文春』でこんなことできるんだ」、「こんなことやっていいんだ」って考えないとね。今の時代は、「あれしちゃいけない」「これしちゃいけない」が多すぎて、それが面白くないですよ。とくにテレビ、新聞、雑誌は、コンプライアンスにがんじがらめになって、見たことあるようなものばかり作って、安心して、数字が取れないと言って嘆いているっていう状況じゃないですか。そうじゃなくて、できることの陣地をどんどん広げていかないと面白くならないですよね。

 みうら じゃあ僕も、すっかりエロが枯れるまで、「人生エロエロ」を書き続けさせてもらいますよ。

  2016年4月収録

文春文庫
ラブノーマル白書
みうらじゅん

定価:770円(税込)発売日:2019年05月09日

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