小説執筆のきっかけは「採用試験の自己PR」──瀬尾まいこ

作家の書き出し

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小説執筆のきっかけは「採用試験の自己PR」──瀬尾まいこ

インタビュー・構成: 瀧井 朝世 (ライター)

『そして、バトンは渡された』で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾さん。
小説執筆のきっかけは国語講師時代、教員採用試験に落ちまくり、何とかせねばと思ったからだとか……。人気作家の創作のルーツに迫ります!

恋人には注がない種類の愛情を書こうとしています

──『そして、バトンは渡された』(2018年文藝春秋刊)での本屋大賞受賞おめでとうございます。しばらく経って、反響などから実感されることはありますか。

瀬尾 本屋大賞の発表会の時に書店員さんたちがPOPを作ってくださったので、それを毎日見ています。みなさんめちゃめちゃ手先が器用ですよね。字もきれいだし、絵もきれいだし。POPを作りたいという情熱だけでは作れないだろうと思うくらい、技術がすごいんですよ。立体的なPOPもあって、小説に出てくる餃子を粘土で作ったものもあって、食品サンプルみたいでした。どうやって作るのかな。私が書店で働いていたらああいうのを作るのだろうか……いや、作らない、作れない。本当にありがたいです。

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)

──主人公の森宮優子は両親との死別や再婚や離婚によって、17歳で父親が3人、母親が2人います。でも、たくさんの愛情を注がれて、まったく不幸とは思っていない。こうした作品で受賞したことに、どのような思いがありますか。

瀬尾 長い時間かけて書いた、思い入れのあるものなのでよかった。私は普段はわりと、楽しければいいや、ぐらいの感覚で書いていることが多いのですけれど、この作品はわりと、「こういうことを書きたかったんだ」と思えた作品でした。

 普段から自分が登場人物に感情移入しているかどうかは分からないですけれど、今回、最初は優子ちゃんの気持ちで書いて、途中から梨花さんや森宮さんの目線になって、最後には森宮さんにすごく感情移入して切なくなって、自分で言うのもすごく気持ち悪いですけれど、自分で書いていて感動しました。

──読み手としても最後は本当に感動しました。瀬尾さんは、最初にテーマを決めて書くタイプではないですよね。『そして、バトンは渡された』の出発点はどこにあったのでしょうか。

瀬尾 一番最初は何だっただろう……。たぶん不幸に見える環境でも不幸じゃないんだっていうことを書きたかったのかな。書き始めたのが子どもが生まれて幼稚園に行きはじめた頃だったので、編集者と「子どもが出てくるといいね」みたいなことは話しました。

 最初は親がどのように変わっていくかは考えていなくて。書きだして梨花さんが出てきて、泉ヶ原さんにいって、その頃にあと1人くらいいたらいいかなと思って、それで森宮さんが出てきて。だから最初に森宮さんがサンドイッチを作っているシーンは後から書いたものです。

──デビュー作『卵の緒』(2002年刊/のち新潮文庫)も親子のお話でしたし、家族を描かれることは多いと思いますが、ご自身ではそこまで意識していないそうですね。

瀬尾 これだけ家族を書いておいてこんなことを言うのも変ですが、全然家族を書こうと意識していないんです。愛情を注がれたり注ぐあてがあるって幸せだ、ということを書いていたら、たまたま家族になったというか。別に家族じゃなくてもいいんですけれども、恋人とかには注がない種類の愛情を書こうとしているからかもしれません。

──家族といっても血の繋がりが絶対的でない、ということも書かれていますよね。

瀬尾 それはすごく思う。中学校で働いていた時、自分のクラスの生徒をめっちゃ可愛いと思っていたら、先輩の先生とかに「自分の子どもってもっと可愛いよ」と言われたんです。でも、自分の子どもが生まれて思ったのは、血の繋がったわが子も、血の繋がっていない担任のクラスの子も、同じように可愛いってことでした。血の繋がりって何においてもそんなに関係ないなって思います。

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そして、バトンは渡された瀬尾まいこ

定価:本体1,600円+税発売日:2018年02月22日


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