あぁ、この感じ。これって散歩のリズムとスピードだ!
瀬尾まいこの描く物語を読むたびに、私が感じることである。うららかなお天気に誘われて、あてもなくふらりと散歩に出た時の、あの歩幅。あの速度。頬に受ける風の柔らかさ。それらが文字の向こうから甦ってくるのだ。
瀬尾まいこは、第七回坊っちゃん文学賞大賞を受賞したデビュー作『卵の緒』以来、一貫して“小さな世界”を描き続けている。派手な恋愛も、死に至る難病も、現代の病理を反映したような犯罪も、ない。そこにあるのは、自分の出自に疑問を抱える母子家庭の少年とその母(『卵の緒』)だったり、不向きな仕事に疲れたヒロインが旅先で辿り着いた山奥の民宿での日々(『天国はまだ遠く』)だったり、バレーボール一筋で、文学とは無縁の青春を送ってきたのに、何故か文芸部の顧問に任命されてしまう高校の講師(『図書館の神様』)だったりする。
この“小さな世界”へのこだわり、がいい。もちろん、そこには諸々の出来事があるし、穏やかな日常に隠されたヘヴィな悩みもある。けれど、それらは、せいぜいが、ひとつの家族、一組の親子、一組のカップル、その範囲におけるドラマなのだ。
だがしかし。世の中なんて、実は“小さな世界”の寄り集まりなのである。ならばその“小さな世界”を描くことこそが、そこから発信していくことこそが、大事なのではないか。瀬尾まいこという作家は、そのことを知っていて、なおかつ、そのことを大切にしている作家なのだと思う。
だからこそ、彼女がその物語世界を描き出す時の優しげな手つきが、読んでいるこちら側の心を捉えるのだ。だからこそ、彼女の物語は、心にすうっと沁みてくるのだ。
さて、本書である。吉川英治文学新人賞を受賞した『幸福な食卓』の映画化も決定し(二〇〇七年正月公開予定)、と、今まさに旬な彼女の新刊は、占い師をヒロインとした連作小説集だ。占い師ですよ、占い師! 瀬尾まいこが占い師の物語を描いた、というそれだけで興味が湧くじゃないですか!!
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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