『居眠り磐音』シリーズのスピンオフというか、外伝を本正月に『奈緒と磐音』、そして、今回四月に『武士の賦』と二冊書いてみた。
『奈緒と磐音』は長大な五十一巻の主人公二人の知られざる物語で、二人の幼き日を回想するように書いた。
奈緒と磐音の心情を想像しつつ追憶する作業の最中、不思議な感情に捉われた。というのも決定版『居眠り磐音』の手直し作業をしながらの創作であり、あらゆる世代の磐音と奈緒が混沌と私の前に現れるのだ。
それにしても創作者はまだいい、思いつくままに書いているのだから。
一方、編集、校正・校閲諸氏は作者の思い付きに振り回される。本編の五十一巻とスピンオフとの長い物語の展開に数多みられる矛盾や齟齬に遭遇するたびに、多大な時間を弄して、整合性を得る解決策を見つけねばならないのだ。それでも直しきれない箇所がいくつか残った。
大変勝手なお願いだが、スピンオフはスピンオフとして楽しんで頂けないだろうか。
今回の『武士の賦』は、別の問題が生じた。
最初『利次郎の恋』という仮題で物語を書き進めてみたが、五十一巻のシリーズでキャラクターが出来上がっている脇役が主役を務めるのは無理があると、途中で気付かされた。そこで利次郎一人の物語ではなく、佐々木道場の若い門弟たちの青春グラフィティのような構成になった。そしてタイトルを『武士の賦』と変えた。
ここでも編集、校正・校閲、装画の諸氏、そして、書店さんや読者諸氏に混乱を招く結果となったことを深くお詫びせねばならない。
やはり五十一巻で完結した物語のスピンオフは、徒や疎かに手を染めてはいけないという教訓を得た。その教訓にも拘わらず筆者の頭には勝手な考えが浮かんでいる。もう一度だけ外伝に挑戦できないか、それが長いシリーズ『居眠り磐音』の終章となる気がする。
実現するかしないか、筆者の迷う日がしばらく続きそうだ。
桜と梅があわせ咲く熱海にて
佐伯泰英
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