- 2019.10.08
- インタビュー・対談
<あさのあつこインタビュー> “青春小説の名手”が描く少年剣士の成長物語
「オール讀物」編集部
『飛雲のごとく』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
江戸を遠く離れた小国・小舞藩(おまいはん)を舞台に、少年剣士たちの青春時代を描いた『火群(ほむら)のごとく』は、あさのさんの時代小説の中では初めて少年を主人公にした作品でもあった。『飛雲(ひうん)のごとく』はその待望の続編である。
「十代の少年の苦悩や喜びは、現代も昔も重なる部分があると思います。時代小説という形にすることで、少年の気持ちをより伝わりやすく描きたいと思ったのが『火群のごとく』でした。書き終えたあと、自分の中でぼんやりとですが、彼らのその後の姿、話す姿や歩く様子、その時々の情景が浮かんできて、いつか続きを書きたいなと思いました」
藩の政争に巻き込まれた兄・新里結之丞(にいざとゆいのじょう)の死から四年。主人公・新里林弥(りんや)は元服を迎え、一家を支える立場となった。林弥は結之丞の死、さらに兄嫁である七緒(ななお)の兄・清十郎(せいじゅうろう)の死の真相を心に抱えている。近しい者の死、という暗部が描かれているものの、この物語に通底しているのは、青年たちの明るさだ。林弥は、友人であり筆頭家老の息子でもある樫井透馬(かしいとうま)、道場仲間の山坂和次郎(やまさかわじろう)とともに、大人たちの事情に翻弄されながらも懸命に生きていく。
「私は“若い”ということは、“生きる”方向に向かっていく、ということだと思っています。ですからどんなに悲惨な状況に陥ろうとも、彼らがなお未来に目を向けていく姿を描かなければ、私がこの物語を書く意味はありませんでした。彼らの“生”が弾けることで、ユーモアや明るさが物語に生まれてきたのです」
林弥の成長に欠かせないのが、女性たちの存在だ。兄の死後に芽生えた、七緒を支えたいという想いは、確かな恋心となり、煩悶の日々が続く。色里の遊女・お梶(かじ)は、林弥が見たことのなかった“他者の人生”を教えてくれる。
「どんな時代であれ、女性は自分で自分の殻を破って、伸びていくことができると思うんです。でも男は、なにかひとつの大きなきっかけ、例えば女性との出会いを経て、精神的にも大きく変化していくような気がしていて。その意味で、少年と女性という関係性は意識して描きました」
様々な経験をしていく中で青年たちの心にはある思いがせり上がってくる。
〈命が軽んじられる世の中を変えたい〉
後嗣(こうし)として江戸から小舞に呼び戻された透馬を中心に、林弥と和次郎の三人は、新たな一歩を踏み出していく。
「この先彼らは、大人の男として生きていかなくてはなりません。身分差もある三人が困難をどう乗り越え生きていくのか、見ていきたいですね」
次なる物語は十一月号から連載予定。
あさのあつこ 一九五四年岡山県生まれ。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞。『NO.6』『The MANZAI』『ガールズ・ブルー』『燦』ほか著書多数。
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