書評

失うことの深さ――こんな物騒で厄介な小説を手放しで褒めていいのか、わたしは身を震わせる。

文: あさのあつこ (作家)

『四月になれば彼女は』(川村元気 著)

『四月になれば彼女は』(川村元気 著)

 川村元気の小説を読むたびに、居心地が悪くなる。というか、妙な胸騒ぎと焦燥感に似た(焦燥感そのものなのか、似て非なるものなのか、よくわからない)感情に揺さぶられて、落ち着かない心持ちになるのだ。だからといって、途中で閉じるわけでも、読みかけのまま本棚にしまい込むわけでもない。それはできない。よんどころない事情で読書を中断することはあっても、その事情から抜け出せればまた、急(せ)かされるように手を伸ばし、ページをめくっている。夢中になる。物語から触手が伸びて、わたしに絡みつく。絡みつかれれば、その世界に引きずり込まれてしまう。本読みにとって至福の一時だ。至福の時が流れ、読み終える。本を閉じる。現実に戻るためにしばらく時間を費やす。

 ここまではいつもと変わらない。本はおもしろい。わくわくする。心に染みて、新しい世界を教えてくれる。少なくともわたしにとっては、凡庸なわたしの一日一日を輝かせてくれる、暗みに隠れていた諸々を照らし出してくれる光そのものだった。

この作品の特設サイトへ(外部リンク)
四月になれば彼女は川村元気

定価:本体680円+税発売日:2019年07月10日


 こちらもおすすめ
インタビューほか若き日の川村元気が12人の巨匠に学んだ、仕事を面白くする力!(2018.09.21)
特集【冒頭立ち読み】『億男』#1(2018.10.15)