- 2016.02.08
- インタビュー・対談
生まれ故郷を舞台に“青春”を描く
「オール讀物」編集部
『透き通った風が吹いて』 (あさのあつこ 著)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『バッテリー』や『ガールズ・ブルー』など青春小説の名手である著者の新作は、故郷・岡山県の美作(みまさか)を舞台に、モラトリアムの時期を迎えた高校生の焦燥を描いた物語だ。
「故郷の存在は常に私の執筆のベースにありますが、はっきりと表舞台に出したのは初めてです。美作で育った映画監督さんから、『あさのさんの原作で、美作を舞台に映画を撮りたい』とご提案いただいて、最初で最後だと思って書きました。
これまでの私にとって、故郷は暮らす場所であって、興味を持つ場所ではなかったのですが、今回初めて、ものを書く者の視線で故郷を見たんです。そうすることで改めて見えてきたのは、美作の美しい自然と、“このまま、美作にいてはダメだ”と足掻いていた10代の頃の気持ちです。当時は言葉を持っていなかったですが、今なら、彼らの焦燥、迷い、ためらいが書けますから」
主人公は、エースとして活躍していた高校の野球部を引退したばかりの渓哉(けいや)。美作を出て、都会の大学に進むのか、故郷に残るのか逡巡していた。捕手で親友の実紀(みのり)は、将来の進路をきちんと決めていた。同じ学校、クラス、地域で生きていた仲間たちと進む道が分かれるという現実に直面する18歳の夏――。
そんなある日、道に迷っていた美しい女性・里香(さとか)を案内することになる。美作の温泉宿で再会するうちに、里香に魅かれていく渓哉は、恋と人生についての悩みを深めていく。
「少年少女の前にひらける茫洋とした広い世界を大人は可能性だとか、希望と言いますが、渦中にいる者にとっては決してそうではないんです。こういった一瞬は自分の中にはっきりと刻まれていて、だからこそ、自身のテーマとして10代を描き続けてきました」
主人公を苛立たせる存在が、地元に帰郷し、美作名産の茶葉を小売りする店「まなか屋」を営む兄・淳也だ。Uターン仲間らと地域活性化のために、いきいきと活動する兄が、実は“あること”を諦めていたのを知った渓哉は「兄貴は後悔せんのか。これでええんか」と叫ぶ。
「大人になるというのは、失ってこそ得られるものがあることを学び、何かを捨てなきゃいけないことを知ることなんでしょうね。
今回、故郷と10代を結びつけた小説を書いてみたことで、これまでより一層の距離感を持って、彼らを描くことができました。そういう意味では、一区切りを付けることができたような気がしています」
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