水商売もの=悲壮感というテンプレを破りたい
――主人公のルーは家出少女という境遇ながら明るくてパワフル、その魅力で物語をぐいぐい引っ張っていきます。
高殿 大阪人はみんな上沼恵美子さんが東京に行って一世を風靡したらどうなったのだろうと考えていて、それを想像してルーを書いた部分があります。あとは下積み時代に大阪のキャバレーで歌っていた和田アキ子さん、そのふたりを足して割ったのがルーです。
――対する先輩ホステスの真珠は静かでミステリアスですが、ものすごい存在感を放っています。
高殿 とびきりの美人ではないけど雰囲気があって影もある、「この女の人をそばに置きたい」という男の独占欲をそそる女性を、嫌味なく素敵に書いてみたいという作家の挑戦がありました。20年作家をやってきて、ルーみたいなキャラはうまく書ける自信があるんですが、そろそろ真珠みたいなキャラも書けるんじゃないのかと。そういった書き手の事情を除くとモデルは実は私の祖母です。明治生まれで平成元年に亡くなったのですが、ずっと和服以外は着ないような人でした。私はずっと祖母の働く横顔を見て育ちました。あの顔を美しく書けたらある意味供養になると思っていましたね。
――脇役のホステスには何度も出戻りを繰り返すような子もいますが、みんな愛情をもって書かれているように思いました。
高殿 誰ひとり、主人公をやっつけるためにいるような存在を出したくなかったんです。水商売を題材にした陰湿な女のバトルものみたいな作品はありますけど、そうなってしまったら『グランドシャトー』は全部だめになると思いました。同時に、彼女たちをちゃんと面倒くさい人物であることも書かなくてはという気持ちもありました。ただ良い人とか、キャラづけされたホステスではなくて、みんなずるいところのある老練なホステスなんだけど純粋な女の子みたいな部分もある、人間てそういうものだから、その二面性までも魅力的に見えるように意識しました。
――『グランドシャトー』では、キャバレーが舞台ということもあってメインの登場人物はほぼ本名がわかりません。
高殿 「日本が」って言い方は主語が大きいかもしれませんが、名前のないものに対して社会って冷たいですよね。名前がないって社会的認知が得られず、価値が低くて見捨てられているのですが、その中に大切なものってたくさんあると思うんです。この作品のなかではそういう存在をすべて全肯定しよう、褒めて称えよう、そこだけはぶれずにやろうと思って書きました。
――たしかに物語全編にわたってポジティブな空気にあふれていると思います。
高殿 水商売もの=悲壮感っていうテンプレートがあるじゃないですか。それが何か業界やそこで働く人たちへのイメージをつくってきたところもあると思うので、そろそろそういうのをなくしてもいいんじゃないかと。そういったものを書けるという確信もありました。
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