端っこでもキャバレーには居場所がある
――やっぱりキャバレーじゃなきゃダメですか。
高殿 例えばスナックだったら狭いから目が合って認識されちゃうじゃないですか。でもキャバレーなら女の子をつけずに端っこで飲んでいれば認識されずにいられます。どこの誰にもなりたくない、でも人のそばにいたいっていう感情ってありますよね。人間社会のあるべき姿って、全員が社会に貢献すべきということでは絶対ないと思うんです。注目されてないなくても、そこにいるだけでいい。だけど、社会の端っこでもいいから居場所がないと、見捨てられていざってときに手を差し伸べられなくなっちゃうじゃないですか。そういう静かにいていい空間、何かしろと言われない空間がキャバレーのいいところだと思います。クラブやスナックじゃ広さがないから無理なんです。
――過剰にかまわれず、でも見捨てられないという絶妙の塩梅がキャバレーにはあるんですね。
高殿 ひとりで席についてビールを注いでいても肯定も否定もされず、「いらっしゃいませ」と言われておしぼりをもらう。2階から騒いでいるフロアを眺めていても別にいいんです。でも、同じ広い空間でもフードコートの端っこじゃだめなんです。
――キャバレーとフードコートは何が違うと思いますか。
高殿 「うちのお客さん」だと認知してもらってるかどうかですね。受け入れられている、ここにいてもいいんだという感じが重要で。キャバレーにももちろんお金が必要なんですけど。例えばフードコートで倒れたとき「うちのお客さんなんです」と言ってもらえるかどうか。キャバレーだったら支配人が「うちのお客さんなんです、常連さんなんです。いつも静かに飲んでる人」って言ってくれると思うんです。もしかしたら、「毎日来てる人だよね」と言ってくれるホステスもひとりくらいいるかもしれない。だけど、フードコートの端で倒れたら、そんな人はいないんじゃないかと思います。絶対とは言いませんけど。
――作家デビュー20年の節目に『グランドシャトー』が出ることとなりました。
高殿 この作品を書いていて、いろいろな面で20年の成長を実感しました。昔から書きたかったけど、たくさんの過去の名作があるジャンルで、水商売=キャットファイトというテンプレートに縛られずに読者の皆さんに楽しんでいただけるものを書けたのかなと思います。作家レベルというのがあれば、それが上がったのかもしれません。本当にご縁ばかりに恵まれて、うれしく、ありがたく、楽しい物語の制作でした。「楽しいことはみーんな大阪からはじまった」。ルーと街の物語をお楽しみください。
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