- 2019.12.19
- 書評
「コミュ障」投資家・村上世彰が、本当に伝えたかったこと
文:池上 彰 (ジャーナリスト)
『生涯投資家』(村上世彰 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
私が講義を受け持っている東京工業大学の学生たちは、自分たちのことを「コミュ障」と自称します。「コミュニケーション障害」の略です。理系の優秀な彼らの中には、自分の思いを他人に伝えることが苦手な人がいて、このように自虐的な表現をするのです。
彼らもあまりに頭が良すぎるので、自分の基準で考えて、「こういう言い方で相手も理解できるだろう」と考えてしまうのですね。
言葉でうまく伝えられないのなら、じっくりと文章にしてみればいい。こうして生まれたのが本書です。さて、村上氏の思いは読者に届いたでしょうか。
私が村上氏のことを初めて知ったのは、「東京スタイル事件」です。婦人服メーカーの東京スタイルは、二〇〇一年時点で純資産が一五七六億円もありながら、時価総額は一〇〇〇億円強に留まっていました。ごく単純に言えば、一〇〇〇億円で株を買い占めれば、一五〇〇億円の資産を入手できるというわけです。当時の東京スタイルを、村上氏はこう評します。
〈本業のアパレルで純資産の半分程度しか売上がなく、しかもじり貧が続いていたのに、大きな経営改革やリストラなど行なわず、莫大な資産を頼りに事業を継続していた〉