- 2019.12.19
- 書評
「コミュ障」投資家・村上世彰が、本当に伝えたかったこと
文:池上 彰 (ジャーナリスト)
『生涯投資家』(村上世彰 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
二〇〇三年当時、親会社のニッポン放送の時価総額は一五〇二億円。子会社のフジテレビの時価総額は六二三一億円。一五〇二億円で六二三一億円が手に入る構造です。
さらにフジテレビの下に産経新聞社がありましたから、ニッポン放送の割安な株を手に入れれば、フジテレビも産経新聞も手に入ってしまうのです。
なぜこのようないびつな構造になっていたのかは本文をお読みいただくとして、村上氏はここに目をつけます。
〈私は、コーポレート・ガバナンスを追求するファンドとして、株主の立場からこの資本関係の「おかしさ」を正したかった〉
〈私はニッポン放送の株式取得を通じて、ニッポン放送の経営や、ましてフジテレビの経営に乗り出す気など、さらさらなかった。私は変わらぬ持論の通り、コーポレート・ガバナンスの不在が招いた状況を正したかった〉
〈このゆがみを修正する過程で、フジテレビによるTOBや株式交換による持株会社化を想定していた。そこで得られるであろう投資利益が、ファンドマネージャーとして大きな魅力だったことは、もちろん事実だ〉
正直ですね。正論を主張し、世の中を変える。その結果、自分も儲かる。一石二鳥なのですが、世間は「所詮は金儲けのためだろう」と冷ややかに見たのです。